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笑いの教科書   (2005年3月13日記載)

 僕はお笑いが昔から大好きである。どのくらい好きかというと、スポーツ・ニュースやドラマを見なくとも、バラエティ番組は必ずと言ってよいほどチェックする(正確に言うと"チェックしていた"と言う過去形が正しい…結婚して子供が二人もできると、テレビを見る事自体が困難なのである)。特に深夜番組の、若手お笑い芸人が登場するお笑い番組は大好きだった。「こいつは売れねえなぁ~」とか、「このコンビはブレークするなぁ」と、文字通りにチェックしていた。深夜番組枠の若手芸人が、ゴールデンタイムに進出してしまうと一抹の寂しさも感じてしまうのではあるが・・・。若手お笑い芸人がゴールデンの枠に移行してしまうと、視聴率稼ぎのために一般受けを狙う傾向が出てくるので、本質的な笑いの変化が要求されてしまう。これが、お笑いファンにはけっこう辛い。瀬戸際の笑いが見れなくなってしまうのだ。それでも、ダウンタウン系の番組(ガキの使い、DX、ジャンク・スポーツ等)やサンマ系の番組(御殿やまんま等)と言ったゴールデンタイムのバラエティ番組を見てしまうのは、お笑いファンの性といったところか。
 で、今回は、一お笑いファンの僕が、お笑いの理論の考察に挑戦してみる。参考・引用文献は何も無いので、僕が勝手に"笑い"を解釈して分類したことを予めお断わりしておく。

<初級編>

・駄洒落(だじゃれ)

 お笑いの基本と言うか、お笑いのプロはまず使わないテクニック。「ダジャレを言うのは、誰じゃあ!」と言うように、ある言葉をまったく関係の無い似た言葉に置き換えて使う技術。「ダジャレー・ヌーボー」の著者によると、ダジャレも様々なタイプに分類できるらしい。ちなみに上記の使用例は間違いで、「ダジャレ」とは言えないそうだ(「布団がふっとんだ」や「アルミ缶にあるミカン」もまた然り)。ダジャレは、使う人のパーソナリティの良さやセンスがないと、単なる「親父ギャグ」と呼ばれてしまう。例えば、居酒屋で肉じゃがを前にして上司が「ミックジャガー」などと言おうものなら、たいてい場が凍りつく。プロの芸人でも、林家三平のように一種突き抜けた人でないと使用が難しいテクニック。
使用例:文化放送の白井静雄アナウンサーが、なんとニュースでダジャレを多用していて、最近ではシンガポールで起こった事件に関し、「シンガポール(※芯が凍る)事件でした」と言うヒット作があった。

・パターン・ギャグ
 主に笑いの「つかみ」や「落ち」に使用される、ダジャレと同様のお笑いの定番テクニック。必ず同じフレーズとフリを使用して、笑いを起こす。「つかみ」としては、若手のお笑い芸人が舞台に登場する自己紹介時にフリ付きで、「ミヤサコです~」とか「サンペイです~」とか言うように使う。「落ち」の場合は、谷啓の「ガチョーン」や志村けんの「アイーン」や「ダッフンダァ」のように最後に使う。一般人でも、ダジャレと同様に多用する基本技。パターン・ギャグの欠点は、世間に認知されていなかったり、そもそもつまらないものであった場合は、せんだみつおの「ナハ、ナハ」のように寒い待遇を受ける点と、飽きられたら通用しなくなる点。ダウンタウンの松ちゃんは、パターンギャグは芸人のイメージの固定化を促すとして、極力利用しないようだ。事実、流行語大賞で受賞した若手芸人が第一線から消えてしまう・・・と言う悲しい現象が度々起こる。
使用例:往年のパターンギャグの例として、お笑いコンビのセントルイスの「田園調布に家が建つ」や、B&Bの「もみじまんじゅう!」等があった。

・リアクション・ギャグ
 これも、基本的に若手お笑い芸人の基礎技能が試される基本テクニック。熱いお湯をかけられる、海に落とされる、そんな時に派手な反応の仕方でお笑いを得ると言う、体を張ったお笑いテクニック。ただし我々一般人が、日常で使う機会はあまりない。年に一度あるかないかの千載一遇の機会に、笑いが取れるリアクションが取れれば、一般人のあなたにも笑いのセンスあり(か?)。新人芸人は、安い報酬にも関わらず、過酷な現場でこのリアクションを要求されるが、リアクションはそう言う多くの芸人の登竜門的テクニックと認識されている。ベテラン芸人の中にも、リアクションを得意とするスペシャリストもけっこう多い。ダチョウクラブとか、出川哲郎とか・・・。
使用例:ダチョウ倶楽部の熱湯風呂リアクションとか。

<中級編>
・世の中の観察・疑問

 誰もが日頃見たり聴いたりしている割には、あまり気にしていない事、感じていない事に目を向ける事で、共感を受けて笑いを誘うテクニック。お笑い芸人がやる最初のステップ、と言って良いかもしれない。逆に言うと、世の中に対する観察眼が鋭くないと、お笑いに向いていないと言う事。玉子料理と同様、「お笑いは観察に始まり、観察に終わる」のかもしれない。青木さやかのネタや、テツ&トモの「なんでだろう~」のネタや、いつもここからの「悲しい時~」や「どけ、どけ~」のネタの多くも、こうした日常の出来事のさりげない観察に基づいている。
使用例:「小学生の5段ギアの自転車をね、僕の21段ギヤのスポーツサイクルで少ない漕ぎで抜いた時に、勝ったと思ったね」・・・つぶやきシローのネタも、日常の鋭い観察眼に基づいている。

・特定人物への批評・皮肉
 世の中の観察眼を、人物観察に絞り、それも特に芸能人や有名人に特化させた笑い。若手芸人が使用する例が多い。芸能人が同業者の芸能人を酷評するから面白いのであって、一般人が芸能人を批評してもあまり面白くない。一般人なら会社の先輩や上司をネタにした方が受けが良いが、会社にいられなくなるかもしれないので要注意である。また芸人が使用する場合でも、(安全牌の)格下の芸能人の酷評だと、笑いよりも嫌悪感の方が強くなってしまうので避けたい。ベテラン芸能人やそれなりに上の立場の芸能人を、立場の弱い駆け出しの芸人が批評するから面白さが生まれるのである。だいたひかる、長井秀和、波田陽区等はこうしたネタから笑いを生む。しかし、やり過ぎるとトラブルにもなることもある…いや、マジに。
使用例:「佐藤玉緒の話しを最後まで聞くと、何故か損をした気分になるんだ!」by長井秀和・・・。

・乗り突っ込み
 これも若手芸人が習得しておくべき、笑いの基本テクニックの一つ。例えば、「おまえ、凄いアホやろ?」と言われて、最初は「ええ、僕は昔から凄くアホで・・・」と応じておいて、途中で間違いに気が付き、「って、誰がアホやねん!」と切り返す。たいていの場合は台本もなくいきなり突っ込まれるので、そう言う時に機転をきかせて「乗り突っ込み」ができれば、合格点と言うことになる。しかし勘の良さや経験が無いと、ベテラン芸人に突っ込まれた時にうまく返せない事があり、後で大反省会となる。一般人でも、笑いのセンスやそれなりの経験があれば使用可能な、笑いの中級技である。
使用例:タモリ「ちっちゃいね~。君、小学生?」。蛍原「はい、小学生です。・・・って、誰が小学生やねん!」みたいな使い方。

・繰り返し(リピート)
 このテクニックを駆使できるレベルまで達すると、既に中級と上級の境界線レベルである。「繰り返し」はいつでも使えると言う技ではなく、ここぞと言う時に使用したい技。誰かが面白い事を発言したら、それを別の人がもう一度言う事で可笑しさが生まれる。複数の人が繰り返すと一層可笑しさが増すが、適当なところで止めないと空気が冷える。そして極めつけは、皆が忘れた頃にもう一度だけ繰り返す。たいていは、笑いが取れて外すことはない。ただしこれは使いどころが限定されるので、会話によっては使えないことも多い。このテクニックは、ダウンタウンの松ちゃんがテレビ番組で好んで使っているようだ。
使用例:(浜ちゃんの豪邸を見た後で)松ちゃん「いやぁ~、壁が白いなぁ~」。みんなが豪邸を忘れた頃にある芸能人の発言を受けて、「それに壁も白いしね~」と返す。一同爆笑。

<上級編>
・シュールなボケ(ないし突っ込み)

 笑いも上級レベルになると、テクニックもそれなりのセンスと経験が必要である。プロの漫才師が、常に磨きを掛けているのがこの「シュールなボケ」である。「シュールな」は、「非常識な」とか「突拍子も無い」と言い換えても良いかもしれない。例えば、漫才の会話のやり取りの中で、りんごを指差して「これなんですか?」と聞かれて、「ひとさし指です」とボケるのはシュールとは言わない。お笑い通なら、この程度の落ちの予想が付いてしまい苦笑が漏れる。近代マジックと同様、笑いも進化しているので、より洗練されたシュールさが求められる。りんごを指差して「これなんですか?」と聞かれた時に、どう答えるかがお笑い芸人のセンスである。りんごに向かって「お母ぁさん!」と言うのか、逆にかじってみて「りんごでした」と言うのか、無数の選択肢があり正しい答えと言うのは無い。笑ってもらえたものが正解なのであり、無数の可能性から正解を選択するのに、笑いのセンスと経験が要求される。実は、子供からお年寄りまで全般的に視聴率を稼ぐ明石家さんまなどは、意外にこのシュールなテクニックは使わない(これは、さんまさんがシュールなボケや突っ込みのテクニックが無いと言うことではない)。シュールなボケや突っ込みは、聞く側にも高度な笑いのセンスが要求されるので、子供や高齢者達が笑えないと言う状況が発生する。すると、当然番組の視聴率が下がることとなる。「シュールさ」はお笑い芸人が極めなくてはならない技ではあるが、若手芸人が深夜枠からゴールデンタイムに移行する場合には、ある程度コントロールして控えなければならなくなる難しい技でもある。ダウンタウンの初期の漫才ギャグも、シュールすぎて(時代の先を行き過ぎていて)、一部のお笑いマニア以外は着いてこれず、残念ながらお年寄りからはほとんど笑いを取れなかった。今、ようやく時代がダウンタウンに追い付いたところ。爆笑問題の太田も、予想の着かないシュールなボケをかまして田中に突っ込ませる。しかしシュールな笑いも、ネプチューンのホリケンぐらい意味不明だと誰も理解できなくて、一部の超コアなマニア以外ちょっと笑えない・・・。
使用例:松ちゃん「身代金500万円用意しろ!」。浜ちゃん「500万円ですね?」。松ちゃん「高い?」・・・みたいなボケはシュールではあるが、分かりやすいし洗練されている。これが十年以上前のネタの一つであると言う事実に、戦慄さえ覚えるのであった。

・物まね・独自の芸
 物まねは本来はお笑いの分野ではなく、江戸家猫八や子猫のような古典芸能の、どちらかと言うと「笑い」よりも「感心、拍手」されるタイプの芸だった。物まねが、いつしか芸能人や有名人の形態模写や声帯模写の事を指すようになってから、お笑いの分野に根をおろし始めた。物まねは、中級編で述べた人間観察や洞察の延長線上にある技だが、誰にでもできると言う芸ではなく、特定の能力を必要とする正に上級技である。ただし、単独の人物の物まねしかできない場合は、芸能界で食っていくのは辛い(その人が有名でなくなると、需要が一気に無くなる)。コージー富田やホリやグッさんと言った第一線級の物まね芸は、何度見ても(笑いを通り越して)感心・感服してしまう。
 物まねと同様、独自の極めた芸の能力を生かして笑いを生む道もある。進化した芸を使って腹話術をメジャーにしたいっこく堂、一級のマジックを使ってしかも笑いを誘うふじいあきらやピエール、蛙君と牛君の人形を使って漫才をするパペット・マペット等々、極めた芸と言うのは笑いと感心の両方を得られる。
使用例:記述不可能。

・複合技・応用技
 プロのお笑い芸人は、一つのお笑いテクニックを単独で使うことはまず無い。一つのお笑いテクニックを極めるのは重要だが、そればかりやっていると、あっという間に飽きられる。歌手の一発屋と同様、一発屋として消えていくお笑い芸人は、星の数ほどいる。生き残っているプロのお笑い芸人は、特出したいくつもの洗練されたテクニックを絡ませて使う。例えば、芸人暦が長い割には芸が無いと言われ続けているダチョウ倶楽部の上島竜兵にしても、誰かに突っ込まれて独自の切れるリアクションを取った後、「取り乱しました」と言って頭を下げる定型パターンギャグを使うと言う複合技を使う(すべて定型テクニックと言えなくもないが・・・)。笑いの引き出しが少なく駄目芸人のように言われる彼も、浮き沈みの激しい芸能界で伊達に生き残っているわけではないのだ。長年一線で生き残っているお笑い芸人を観察すれば、最低限いくつかの得意技を複合的に使っている事が分かるはずだ。
 複合技に似ているが、応用技と言うのもある。それぞれのテクニックに捻りを加えて使う。例えば、漫才は「ボケ」と「突っ込み」で成立すると言う概念をぶち壊して、コンビの両方がボケると言う特殊なテクニックを編み出した笑い飯は、笑いの新境地を切り拓いたと言って良いだろう。
使用例:物まね芸人が、芸の中にパターン・ギャグや独特のリアクションやボケを織り交ぜたりしながら物まね芸を行なう、等。

・無定型技
 シチュエーションに応じて、臨機応変にその場に適合した受け答えをする無定型な技。正に、笑いの上級者しか駆使し得ないテクニックで、定型的な駄洒落やパターン・ギャグの対極にある技である。上級者以外にも、浅田美代子や西村知美のような"天然"系の人の起こす笑いも、図らずもこの無定型の域にあると言えるかもしれない(天然を装っている"偽"天然には不可能な笑いのレベルである)。無定型であるが故に、理論は無い(もはやテクニックとすら言えない)。笑いのセンス、いろんな分野にまたがる知識、様々な人生の経験などが無いと、達し得ないレベル。フリートークでこそ、本領を発揮できる技。笑いの集大成であるとも言える。流水のように無定型で、風になびく柳の枝のようにしなやかで、空に浮かぶ雲のように風の吹くまま気の向くままの自由奔放な発想。笑いの本質を悟った「笑い道の解脱者」のみが達する領域と言えるかもしれない。この域に達していると思われるお笑い芸人は、タモリやダウンタウンなど極限られた一握りの芸人だけである。
使用例:日常会話にて。A:「え~と、ほら、あの映画の俳優の名前、誰だっけ?ここまで、出かかっているんだけど・・・」。B:「思い出したら電話してくれよ」。(←これを文章にした時点で定型ギャグになってしまい、同じシチュエーションではもはや二度と使えない。無定型とは奥が深い)。

 さあ、お笑いテクニックを極めて、これであなたも明日のお笑いスターだ!(んなわきゃ、ねえだろ!←爆笑問題の田中風に)。


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