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和製英語とかの氾濫ひどくない?   (2005年2月27日記載)

 ここ十年以上「なんだかなぁ~」と感じていることの一つに、"和製英語の増加"がある。もしくは、"カタカナ英語の増加"と言っても良いかもしれない。昔から、日常で使われるカタカナ英語はあったと思うけれど・・・例えば、シャーペンとかセロテープとかクーラーとか・・・、最近とみに増えた、と言うか耳につくようになったと思う。コラボレーション、モチベーション、リスペクト、スタンダード、ユビキタス、ハイブリッド、オンデマンド、オンブズマン、フィーチャー、etc.・・・こう言う言葉をニュースやCMや歌とかでよく聞くと思うけど、多くない?
 そう言う事を初めて意識したのは、僕が学生時代から社会人初期にかけてのまだバブル経済が絶頂だった時期だ。先輩に、何故か会話に"英語"を混ぜたがる人がいた。「ディテールに入る前に、まずコンセプトを確認した方がいいんじゃないの?」とか「コンセンサスの一致は取れてるの?(←既にこの使い方が間違っているのだが・・・)」とか、当たり前のように言うのである。「"試験に出る英単語"のような言葉を、日常会話で恥ずかしげも無く使ってしまうこの人は何?」とか「意味分かんねえよぉ。日本語で言ってくれよぉ。」・・・と思ったりもしたが、先輩だから当然"突っ込めない"のであった。しかしその頃から、どうやら社会全体がそう言う言葉の使い方の方向に流れているようだった。誰もが「自分はハイソ(←すまん・・・これも和製英語だ)社会の一員だ」と勘違いさせてしまったバブルと言う時代の影響が大きいと、僕は考えている。

 "和製英語やカタカナ英語の多用"の延長線上に、"専門用語の多用"がある。役人や学者達は、さも当たり前のように聞いた事も無い"カタカナ英語的"専門用語を使う。事件や事故が起こる度に、その道の専門家である学者がメディアにコメンテーターとして登場するのだが、一般的には使われない英語のような専門用語を駆使する。経済学の用語、医学の用語、心理学の用語、軍事用語等々・・・そんなものを、一般視聴者が知っているはずがあろうか?「分かりやすく説明するためにコメンテーターとして呼ばれているのだろうが、あなたは!なぜ、あえて分かりにくくするっ!」とテレビに突っ込みたいところである。こう言う傾向は、学者や役人に多いようだ。専門的な道で生きている人達なので、専門的な用語でも日常は事足りているのだろう。それで、一般の人にも平気で専門用語を使ってしまう。要するに、やや世間ずれしていのである。これが民間企業の人だと、自社の商品を買っていただくために、顧客や一般の人々を説得する事に懸命だから、色々と分かりやすい言葉を使って説明したり、理解しやすいような販促グッズを用意したりする。学者達の中には、難しい専門用語を会話に織り交ぜることで、私はその道の権威者であると言う事を暗に示したいと言う、確信犯的な意図を持って話す人もいるようだ。しかし、その道の権威者ならばこそ、一般の人に分かりやすく噛み砕いて話すべきである。昨年だったか、一昨年だったか、官公庁の文書で「難解な言葉(多くは英語的なカタカナ言葉)を使わないように、分かりやすい日本語を使うように」と言う指示が出されたと記憶している。

 僕は、現在CG映像制作を生業としているが、やはり専門用語は避けて通れない世界である。僕がCGを始めたのは15年ほど前になるが、その頃周囲にCGをやっている人はおろか、パソコンを持っている人も極稀だった。日本製のCGソフトもほとんどなく、僕が買ったパソコンもソフトウェアも、すべてアメリカ製だった。当然、マニュアルもすべて英語で、翻訳マニュアルなんてものは無かった。今では冗談のような話しなのだが、パソコンのスイッチと、ディスプレイのスイッチ、どちらを先に入れていいのか分からず(※結論としてはどちらが先でも構わないのであるが)、マニュアルの操作方法を訳すまで電源すら入れられなかったと言う苦い経験がある。そんな状態だったから、ソフトウェアに至っては、どこをどう操作して良いかさっぱり分からなかった。そこで、パソコンや2DCGソフトや3DCGソフトのマニュアルの翻訳から始めることにした。これらのマニュアルが、また事典のように分厚い。マニュアルを翻訳し始めて、またびっくり・・・。辞書を引いても、その言葉の意味が載っていないのだ。今でこそ、CG用語集なるものがあるが、当時はそんなものはまだ無かった。「ヒエラルキーって何?」、「バーテックスって何?」と言うように、頭の中は「???」でいっぱい・・・ターヘルアナトミアの杉田玄白状態である。「ヒエラルキー」を辞書で引くと、「天使の十二階級」と出ている。それ以外の意味が、辞書には載っていなかった。「天使の階級とCGにいったい何の関係が?」。分からないので、そこの意味は空白にしておいて翻訳を先に進める。すると全体的な文脈から、「ヒエラルキー」が「腕-手-指のような、CGの階層組織」を指している事が分かった。懸命な割には、カタツムリの前進のような超スローペースの翻訳作業であった。日中は仕事をしているから、それらの翻訳は真夜中の作業である。半年以上かかって、なんとか翻訳は完成。翻訳したノート2冊も、やはり事典のように分厚くなった。日本語のマニュアルがあるのは心強い・・・こうして僕はCGクリエーターへの第一歩を踏み出していった。その頃のCGクリエーターは、CGの専門学校もなかったし、周囲に同業者がほとんどいなかったので、多かれ少なかれ僕と似たような苦労をしていると思う。最近のCGソフトのマニュアルを見ると、当たり前のように専門用語が羅列されている。アンビエント、インバースキネマティクス、ウェイト、シェーダ、グロー、マップ、スペキュラ、モーショントラッキング、ダイナミクス、ディフューズ、テクスチャ、トランスペアレンシ、ナーブス、ボーン、ポリゴン、マッチムーブ、ラジオシティ、ルミナシティ、レンダリング等々(挙げ始めると切りが無いが)・・・こう言った専門用語を理解できないCGクリエーターは、皆無と言って良いだろう。こんな言葉、15年以上前の僕だったら何のことやらさっぱり分からなかっただろう。
 しかし、これらの専門用語が通用するのは、CGと言う特殊な限定された世界だけである。これらの言葉を打ち合わせの際に、CGを知らない一般クライアントの前で使用するのは愚の骨頂である。僕も、映像プロダクションの人と打ち合わせをした時に、相手側が僕の知らない映像用語を使うことがしばしばあった。そう言う時は、率直にその言葉の意味が分からないと告げる。「Qショットって何ですか?」、「スウィシュってどう言う意味ですか?」と、はっきり聞く。別に恥ずかしい事ではない。専門の世界では、知ったかぶりの方が後々大きな失敗につながるからだ。こう言う専門用語が許されるのは、やはりその専門業界だけである。
 僕はCG屋なので、よくパソコンのセットアップを頼まれたり、ソフトウェアの使い方を聞かれる。そう言う時には、なるべく専門用語は使わないように心がけている。これは相手を馬鹿にしているわけではなく、僕もパソコンのスイッチの入れ方すら分からなかった経験があるから、相手が今どこが分からないかを相手の立場に立って理解し、相手が知っている概念や言葉を使って教えたいと思うのである。いわんや、全国的なメディアに登場する専門家達は尚の事、我々に分かりやすい言葉で語ってもらいたいと思うのである。

 和製英語、カタカナ英語、難解な専門用語の氾濫と共に、「なんだかなぁ~」と思っていることの一つに、英文の頭文字を使った名称の短縮化と言うのがある。これも、バブル経済の頃から流行りだしたのではないかと思う。まずは、企業名が和名から英語の頭文字に変えられていった。ANA、JAL、JA、JT、JTB、JR等々と、企業名は変わっていった。若い世代では、"日本たばこ"とか言われてもピンとこない人も多いのではないだろうか。各種団体名も、短くするのが流行った。その最右翼が、新たに作られたプロ・サッカーリーグのJリーグだろう。他にも、GP1、K1、Vリーグのように続々と新たな名前が登場していく。そのうち日本中の企業名や団体名が、英語の頭文字の組み合わせになってしまうのではと思ったくらいだ。僕は、(せめてものささやかな抵抗と言うわけでもないのだが)うちの事務所名を漢字三文字を使用した、まったくデジタルとは無縁な純和風の名前にしている。
 企業名や団体名だけではない。世の中の様々なものが、"英語の頭文字化"されていった。例えば、銀行員になった当初、CDには三つの意味があった。一つは、ご存知"コンパクト・ディスク"である。もう一つが、"キャッシュ・ディスペンサー(現金自動預け払い機)"であり、残る一つが"譲渡性預金(Negotiable Certificate of Depositを略してCD)"の事だった。ITと言う言葉も、今では当たり前になっているが、それは"インターネット・テクノロジー"の略だと思っている人も未だに多いようだ(正解はインフォメーション・テクノロジー)。現代社会では短縮形の言葉が日夜増え続けているので、短縮された名前の元々の意味が何であるのかが、次第に分かりづらくなっている。かつて、友人に「ミーハーって、どう言う意味なんだろう?」と尋ねたことがある。友人曰く、「ミーちゃん、ハーちゃんから来てるんじゃないの・・・」と言う。「じゃあ、ミーちゃん、ハーちゃんてどう言う意味だろう?私(ミー)も、彼女(ハー)も、って言う意味かな?」。しかし、そこの所は友人も分からない。日常で短縮して使っている言葉の、本来の意味が分からない・・・実はそう言う言葉って、けっこう多いのではないだろうか(ちなみに「ミーハー」の語源は「みよちゃん・はなちゃん」で、→「みーちゃん、はーちゃん」→「ミーハー」へと転化したそうだ。元来の名前が示すように、女性や子供、ひいては大衆を表す言葉だと判明…三省堂・国語辞典より)。

 名称が短縮されただけでもその言葉の本質が何なのか分かりづらくなっているのに、さらに困った事に十年前と比べて、商品区分と商品名もどんどん細分化されている。この商品と商品名の細分化も、「なんだかなぁ~」である。例えば、DVD(←この意味だって、本当に理解されているのかなぁ。デジタル・ビデオ・ディスクじゃないですよ。VはVersatile(万能)のVです・・・念のため)。ちょっと前までは「DVD」と言えば、正に「DVD」以外の何物でもなかった。ところが、現在一口にDVDメディアと言っても、DVD-ROM、DVD-R、DVD-RW、DVD+R、DVD+RW等々が共存する。僕も急いで買い物をした時に、DVD-Rと間違えてDVD+Rを買ってしまって使えなかったことがある。ましてや、デジタル機器が苦手の人だったら一体何を買ったらよいのか、メモしておかないと分からないだろう。似たような事は、ビデオ・テープメディアにも言える。昔は、BetaとVHSの2種類だった。その後、S-VHS、8mm、Hi8、DV(miniとlargeがある)と増え、それに加えてプロ用のメディアとして、DV-CAM、DVCプロ、Betacam、BeatacamSP、Digital Bacam、HD-CAM、D1、D2からD5・・・等々があって、もう種類が多すぎて、仕事であっても、とうてい全部のテープデッキを揃える事は無理!!テレビ局や編集所でも無い限り、揃えるのは不可能であろう(うちの事務所にも、BetacamSP、DV-CAM、DV、VHS、Hi8と言った限られた種類のテープ・デッキしか無い)。各メーカーの思惑があって、こう言うように商品やフォーマットの種類は、拡大し続けている。デジタル記録メディアも、昔はフロッピーディスクだけだったが、Zip、MOと増え続け、コンパトク記録メディアもスマート・メディアやメモリー・スティックなど色々と登場している。もともと分かりづらい名称なのに、似たような名称の商品が増えてきて、「え~と、いったい自分は何を買えば良いのだっけ?」状態である。メーカーの思惑と消費者の利益は、どんどん乖離していく。まあ、最後の例は商品自体の細分化の例だから「言葉」の問題とは、また別の問題だけど…。言いたいのは、言葉の短縮化も行き過ぎるとちょっと困ったものである…と言うことである。

 和製英語、カタカナ英語の氾濫、専門用語の多用、短縮名称の増加・・・言葉と言うのは時代と共に変わるものだとは思うけれど、社会や人々への配慮を忘れた言葉の変革や乱用は「なんだかなぁ~」なのである。


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