入口 >トップメニュー >ワインとCGと祈り >現ページ
草加煎餅とワイン (2003年12月7日記載)
僕は草加市民なのだが、子供の頃からお煎餅屋さんの同級生が何人かいたせいもあって、"草加煎餅"にはけっこうこだわりがある方だと思う。「おまえ、考え方ちょっと偏ってるぞ!」ぐらいの"草加煎餅"に対する思いもある。先日99円ショップに寄った際、草加せんべいも売っていたので買ってみた。99円なのに、8枚も入っていた。一枚辺り、12円ほどである。草加せんべいをあまり御存知のない方もいらっしゃると思うが、草加煎餅が1枚12円と言うのは破格の安値である。草加煎餅は、天日干しで手焼きのものなどは、70円するものもあるのだ。さて、その99円ショップの草加煎餅を食べてみたが、醤油の香ばしい香りはあまりなく、噛み応えは柔らかすぎて、味は妙な甘さがあった。原材料を見ると、なんとステビアが使用されている。「草加煎餅に、何故ステビアなのだ???」と、疑問符の嵐(笑い)。パッケージに目を移す。製造元は埼玉県内の某市にある会社、販売元は東京都内の会社である。どこにも草加の会社は関わっていないのに、"草加せんべい"なのである。その後、地元の草加煎餅を買って食べたが、香り、歯ざわり、味、まったく別物だった。実は、草加市内で作っていない"草加煎餅"はけっこう多い。埼玉県内の草加市以外の市で作っていたり、中には東京や栃木で作っている"草加煎餅"だってあるのだ。
そもそも草加煎餅と言うのは、原材料は草加市近郊の田から取れたうるち米(東北等の遠方のお米を使うこともある)や、野田産などの醤油を使っていて、つまり原材料は基本的に"草加産"のものではない。それらの原材料を用いて、草加で加工・製造して初めて"草加煎餅"となるのである。つまり草加煎餅の草加煎餅たるゆえんは、唯一「草加で作ってこそ」なのである。
さて、突然"ワイン"の話に移る。ワインと言うのは、様々なブランド名やワインの名称があって、それらの名前は法律で守られている。フランス、イタリアを初め、多くの国々で、ワインの名前は法律で守られている。ある地域のあるぶどうの種類で作ったワインは、他の地域の別のぶどう種で作ったワインの名を語ることはできない。これを一般に「原産地統制呼称(or統制原産地呼称)」と呼ぶ。例えば、世間では一般にスパークリングワイン(※発泡性のワイン)を、どれでも"シャンパン"と呼んでいる。しかし実は、スパークリングワインの中でシャンパン(若しくはシャンパーニュ)と呼んで良いのは、フランスのシャンパーニュ地方で生産されたものだけである。それも、かなり厳格な規準を満たしていなければならない。だから、同じフランス国内の他の地域で同じように伝統的な瓶内二次発酵で作られた発泡性ワインでも、シャンパンを名乗ることはできない。だから、シャンパンの品質の評価は高く、価格も高価なのだ。
以前、ある結婚披露宴に出席した時、乾杯用の"シャンパン"が運ばれてきた。ラベルにシャンパンと書いてあったが、見たことのないラベルだったので興味をそそられた(僕はソムリエ協会のワイン・エキスパートなので、どうしてもワインの細かいところに目がいってしまうのだ)。乾杯の挨拶の間、係りの人がシャンパンをグラスの注ぐ間、ラベルの裏側を注視していた。すると、なんと"メイド・イン・アメリカ"と書かれているではないか!アメリカ産の"シャンパン"…まったく有り得ない。シャンパーニュの協同組合から訴訟を起こされたら、間違いなく完全敗訴するワイン呼称である。アメリカ産なら、堂々と"スパークリング・ワイン"と名乗るべきなのだ。何も恥ずかしいことではない。シャンパンに匹敵する上質なスパークリング・ワインは、たくさんある。何故、結婚式場側がそんな姑息なラベルのワインを用意するかと言うと、「おめでたい席なので、ぜひともシャンパンを用意したい」→「でも、本物のシャンパンはとても高くて予算内ではご用意できない」→「では、名前だけでもスパークリング・ワインをシャンパンと変えましょう」…と言うことなのだろう。シャンパーニュ地方の生産者達は、シャンパーニュの名に恥じぬよう、懸命にぶどうを育て、精魂込めてワインを作っている。彼らの作った上質なシャンパーニュは、いつまでもグラスの底から繊細な泡が立ち上り続ける。一方、工場で後から炭酸を無理に混ぜ合わされたような大量生産の粗悪なスパークリングワインの泡は、コーラの泡のようにすぐに消えてしまう。
フランス(またはヨーロッパ)のワインが、何故そんなに法律で呼称を統制するのかには、歴史的な背景、理由がある。かつて、どうでも良い粗悪な三流のワインに、一流のワインラベルを貼って高額で売ると言う詐欺のような販売が横行し、ワイン市場が大混乱したことがあり、そう言ったことが二度と起きないように法律で規制したのである。
さてさて、話は再び"草加煎餅"の話に戻る。日本の食品業界も、もっとしっかり原産地統制呼称をしっかり守るべきだと思うのだ。そういう法律があっても良いはずだ。今年、魚沼産コシヒカリが1%も入っていない"魚沼産コシヒカリ"が格安で販売されていた事件が、ニュースで取り上げられ大問題になっていた。僕も、前から疑問に思っていた。「魚沼産コシヒカリが、そんなに市場に溢れているわきゃねえだろ!」、と。売れれば何でもありだったようで、生産者の苦労は踏みにじられ、消費者も騙したとんでもない話だ。
結局僕が言いたいのは、そう言うことだ。草加煎餅を作る店は、草加煎餅の伝統製法を重んじながらも、おいしいお煎餅を作ろうと日々色々と努力している。原料を厳選しているとか、秘伝のタレを使っているとか、天日干しが良いとか、手焼きをしているとか、否、機械焼きだっておいしい味がだせるのだとか、どの生産者も、各自の煎餅作り哲学を持ち、ポリシーをもって「煎餅作り」に励んでいる。それは、シャンパーニュの生産者達が、誇りを持ってシャンパンを作っているのに等しい。本格的な草加煎餅と、1枚12円の草加煎餅は、似て非なるものだ。本物のシャンパンと、ソーダ水のようなスパークリングワインの差ぐらい、まったく別物だ。「草加煎餅」は、「草加において、こだわりを持って作ってこそ」なのだ。東京で作るのなら、堂々と「元祖・東京煎餅」を名のれば良いし、栃木で作るのなら「名産・栃木煎餅」とでも名のれば良いのだ。
デフレ時代で、いろんな物がどんどん安くなる。安いのは良いのだけれど、偽者が我が者顔で幅をきかすようになる。その一方で、伝統的な"本当に良質な物"が失われていく。全国的に言えることだけれど、みんなもっと地元の名産品の"名前"を大切にしませんか?
新品価格
¥999から
(2014/11/11 14:15時点)
【バーゲンブック】 フランスワイン文化史全書 ぶどう畑とワインの歴史
新品価格
¥4,000から
(2014/11/11 14:21時点)
ワインで考えるグローバリゼーション (NTT出版ライブラリー レゾナント058) (NTT出版ライブラリーレゾナント)
新品価格
¥1,836から
(2014/11/11 14:20時点)
新品価格
¥1,027から
(2014/11/11 14:21時点)