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空飛ぶタイトルロゴ    (2002年10月20日記載)

 さて、「ワインとCGと祈りの日々」も5回目を迎えた。しかしながら、過去4回を振り返ってみると"ワイン"の話も"CG"の話も"信仰"の話も、一度もしていない…。う~ん、これはいかん。と言うことで、今回はやっとCGのお話。
 一口にCGと言っても、それが意味するものは多種多様である。Computer Graphics(コンピューター・グラフィックス)…略してCG。今日、コンピュータによって作られた画像は、一括してCGにくくられている。しかし、現在CGのカバーするテリトリーはあまりに広くなってしまった。2DCGに3DCG、デジタル特殊効果や特殊合成、これらによって作られた画像は、すべてCGI("コンピューターで作成されたイメージ"の略)と呼ばれる。広告や印刷物に使われるイラストも、CGIがかなりの割合で目に付く。テレビのアニメもかつてはセル(※透明な薄い板)に描かれていたが、今日では動画もパソコンで着色したり、デジタルペイントの背景や3DCG画像と合成したりするのが一般的になっている。劇場映画でも、デジタルツールを使って特殊効果が使用されたり特殊合成されたりしている。最近では、"Non CG"映像を探す方が難しいかもしれない。

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 僕が始めて"CG"に感銘を受けたのは、中学生の時である。CG映画のさきがけとなったのはディズニー映画の"トロン"だが、僕がCGで驚いたのはスーパーマンだった。とは言っても、時代はまだ1970年代。CG映像の技術は、とてもお粗末な代物だった。CGの作り手は、コンピューター・ディスプレーに表示される文字だけのコマンドラインと格闘しながら、数学の計算式によって座標上のポイントを指示しながらCGを作っているような時代だった…ユーザーフレンドリーなインターフェイスなどまったく無い。当然、スーパーマンのストーリー自体にはまったくCGは使われていないし、特殊効果も(当時の時代の最先端技術ではあったが)すべてアナログ技術。そんな中で、CGが思いっきり使われていたのがオープニング・タイトルだった。もう、これがクール!ナイス!ブラボー!なのであった。半透明でしかも立体的な文字が僕らの方に飛んできて、カメラをすり抜けていくではないか!すごい迫力!これが驚かずにいられようか!こんなタイトルは、見たことなかった。タイトルを見ただけで、もう胸がワクワクするのである。当時の映画やテレビ番組のタイトルと言えば、"手書き"もしくは"写植打ち"の平面のロゴを、OL(※オーバーラップで出す)やカットイン(※パッと出す)で出すくらいの表現方法ぐらいしかなかった。映画のエンドテロップ(※エンディングに流れる文字情報)も、黒い画面に白い文字が流れる(※ロールと言う)処理ぐらいだった。しかし、スーパーマンのエンドテロップの文字もオープニングと同様に、"立体文字"…つまり3DCGロゴがロールしているではないか!。
 この時の衝撃は大きかった。どのくらい大きかったかと言うと、自分でも「こんなタイトルアニメを作ってみよう!」と思ってしまったほどである。当時、お年玉や小遣いを貯めて8mmカメラ(とは言っても当時は、ビデオカメラではなくフィルムカメラだが)をすでに買っていた。普通の8mmカメラと違い、コマ撮り(※1フレームづつ撮影する)ができる機能が付いている優れものだった。「2001年宇宙の旅」に影響を受けて、中学生の僕は独自に考えた特撮や模型のコマ撮りをしていた。"人間が寝静まった後に動き出すおもちゃ"を想定して、おもちゃをコマ撮りで撮影したり、"飛行機やUFO"の模型を糸でぶら下げて撮影したりしていた。そんな少年だったので、タイトルアニメくらいは簡単にできると高をくくっていたのである。
 まず方眼紙を用意し、鉛筆と定規でロゴを書き込む。それから焦点に向かってパースを付けて、立体文字風のロゴを描く。3秒のアニメを作るため、72枚(※秒当たり24コマ)の方眼紙に動画を描いていく。しかしである…コンピューターはおろか、計算機すら高価だった時代なので、紙の上で手計算しなければならない。3次元軸上を立体文字が移動した場合の距離の変化を計算していく。が、たかが中学生なので複雑な計算式がよく分からない…山勘も混ぜながら、方眼紙の軌道上に立体風ロゴの動画を定規を使って描いていく。72枚の方眼紙に、動画をすべて描き終えると、今度は鉄筆でそれを画用紙に書き写していく。透過光台は無いし、もちろんセルやロットリングなんて言う高価なツールも当然買えないので、画用紙に鉄筆で転写さぜるを得なかったのである。転写を終えると、水彩絵の具で画用紙に転写されたロゴを立体文字らしく陰影をつけて塗っていく。そしてそれが乾くと、いよいよ8mmカメラで撮影である。一コマ、一コマ、位置がずれないように丁寧に撮影していく。画面の奥から自分の方へ向かってくる迫力のあるアニメを想像しながら、カメラの露光やピントが変わらないようにシャッターを押していった。撮影が終わると、それを写真屋へ持ち込んだ(当時、一部の写真の専門店では、8mmフィルムの現像も取り扱っていた)。現像には、一週間くらいかかる。僕は、フィルムの現像が上がってくるのをワクワクして待った。一週間後、待ちに待ったフィルムが僕の手元へやって来た。家へ帰るなり、8mm映写機を用意してフィルムをスクリーンに映写した。スーパーマンのタイトルのような、クールなタイトルアニメのはずだ!立体文字が画面の奥から、こちらへ向かって飛んできて、そして画面から飛び去っていくはずだ!そう、そのはずだった…実際のロゴはどうであったろうか?カクカクと不細工に手前にやってきて、カクカクと画面からあっと言う間に消えていった。3秒…目が点の3秒。こんなはずでは!?中学生にとって、8mmフィルム代や現像代は決して安くない…お小遣い一ヶ月分にも匹敵する。中学生には、紙上で作る3Dアニメはちょっと難しかったようだ。アニメ制作の上でのお約束事もほとんど知らなかった頃のことであるし、とにかく初めてのタイトル・アニメは大失敗だった。

 さて、あれから20年以上たった現在、タイトル・アニメを山ほど作っている。業界では3DCGによるタイトルアニメを、"フライング・ロゴ"と呼んでいる。正に、ロゴが飛んでくるからだ。CG制作には、キャラクター・アニメCG制作や図解CG制作、特殊合成CG制作、そしてフライング・ロゴCG制作など、いろんなCG制作がある。とある雑誌のインターヴューで、某CG制作会社の女性プロデューサーが「ロゴを飛ばしていれば金が稼げる時代は、もはや終わった」と語っていた。これはある意味正しいし、ある意味間違っている。CGはより高いリアリティや特殊性を求められていく一方で、より目を引くインパクトのあるCGタイトルも求められている。実際、僕の昨年のCG作業量を見ると売り上げの1/4近くがフライング・ロゴCGで、金額にして数百万円にもなり、僕の食い扶持を稼いでくれている。実は、これは僕がCGを始めた10年ちょっと前とたいして変わらない数字である。

 僕がこの業界にくる直接のきっかけは「2001年宇宙の旅」だが、CGを始めたいと思ったきっかけは「スーパーマン」で見たフライング・ロゴ・タイトルである。だからCGを始めた当初は、車や飛行機やかわいいキャラクターのCGよりもフライング・ロゴCGをたくさん作った(そういう需要も多かったし)。前出のプロデューサーは、たかがフライング・ロゴと言うかもしれない。しかし、映像や番組の顔が"タイトル"である。「番組や映像の内容」と「タイトルのデザインや動き」がかけ離れていたら、番組を伝える威力が半減してしまう。恐怖映画のタイトルに、チューリップみたいな文字のタイトルがピョコピョコと出てきたら、はっきり言ってドッチラケである。そう…フライング・ロゴ・アニメ制作は、奥が深いのだ。まず、映像や番組にふさわしいロゴをデザインしなければならない。デザインを終えると、次にCGのモデリング(※造型)作業である。ロゴのモデリングを終えると、色や反射や透明度等々を決めなければならない。それから、ロゴの"決め"のレイアウトを決定する。真中にど~んと配置するのか、右下なのか、上なのか、ロゴは傾けるのか、真っ直ぐに配置するのか…等々。次に、ライティングを決めなければならない。どんな雰囲気を狙ったライティングにするのか…ライトは何灯か、どんな種類のライトか、そしてライトの色は?ライトは、どこに配置し、どこから照らすか。補助ライトやバットライトはどうするか?。それから、動きを決めていく。奥からでるのか、左から出るのか、それとも手前からでるのか、OLでだすのか、一文字づつバラバラで出すのか、まとめて出すのか、文字は回転させるのか、させないのか。タイミングや全体の動きのバランスも大事。ドーンと迫力を出すのか、静かに優雅に出すのか、オドロオドロしく出すのか、ポップで楽しい感じでだすのか。これらの一つでもバランスが悪いと、良いフライング・ロゴCGが出来上がらない(僕もよく失敗する)。デザイン、モデリング、質感設定、レイアウト、ライティング、アニメーション設定…フライング・ロゴCG制作には、CG制作に必要なエッセンスのすべてが詰まっている。料理人が「玉子料理に始まり、玉子料理に終わる」ように、CG制作は「フライング・ロゴ制作に始まり、フライング・ロゴ制作に終わる」と言っても、過言ではない気がする。そう、フライング・ロゴ・アニメは、中学生だった僕が制作に失敗しても無理の無いものだったのだ…と、今にして思う。ロゴよ、今日もどこかへ飛んでいけ!!


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