JOLLYBOYの経済学入門

入口 >トップメニュー >経済学入門 >現ページ

9.デフレーションのメカニズム (2010年4月25日記載)

 長く続く"デフレ"不況。物の価格下落が止まらない…物の価格が下がれば、商品を安く買えます。そうなればお財布に優しいし、家計が助かります。と、プラスの良い面に目が行きがちですが、経済全体にとってはマイナスの面が実は大きいのです。(腐っても)経済学士のJOLLYBOYが、このデフレーションのメカニズムについて分かりやすく説明を試みます。自動車販売、家電販売、コンビニ、スーパー、まあ、業種は何でも良いのだけれど、身近なお弁当屋さんの例で解説します。

①ある地域にお弁当屋さんが、3軒あったと仮定します。従業員は、店主も含めてそれぞれ4人ずついるとしましょう。3店合計で、12人の従業員がいます。
③どのお弁当屋さんも味がよく、お弁当の値段がそれぞれ平均500円としましょう。
③その地域では、毎日平均600人のお弁当の需要があり、それぞれ、毎日平均200人ずつお客を分け合っているとします。
④お弁当の材料費など原価は、一個あたり300円とします。一日平均200個売れるので一日の売り上げは100,000円で、原材料費200個分の60,000円を差し引いた、1店あたりの粗利はだいたい一日40,000円。
⑥粗利40,000円から、従業員一人当たり8,000円、4人分の計32,000円支払い、残りの4,000円を店舗の家賃、光熱費支払いなどの経費に当て、残り4,000円が一日あたりの純利益になるとします。
(((売り上げ/500円×200個)-(原価/300円×200個))-((従業員給与8,000円×4人)+(店舗費/4,000円))=一日あたりの純益4,000円)。

 さて、不況の風が強くなって手持ちお弁当派が増え、地域のお弁当の需要が500人に減ってしまいました。お弁当屋一店舗あたり、一日30人以上もお客が減ってしまったのです。
 そこで、3店のうちの1店の店主がお客を増やすべく、思い切った値下げを断行しました。お弁当の値段を、400円まで下げました。そうしたら、お客の数がまた200人に戻りました。しかし、一日の売り上げは(お弁当の価格を下げているので)80,0000円となり、20,000円も下がってしまいました。粗利は、たった20,000円になり、4人分の従業員費用を払えないので2人解雇することに…。それでも、一日あたりの店舗の家賃や維持費、高熱費を支払ったら、純益は0円!
(((売り上げ/400円×200個)-(原価/300円×200個))-((従業員給与8,000円×2人)+(店舗費/4,000円))=一日あたりの純益0円)。
 このお店は、たいへんな営業努力をした結果、従業員を2人も解雇さぜるを得なくなり、しかも半分の従業員数(2人!)で今までの仕事をこなさざるを得ない、たいへん辛く苦しい経営状況に陥りました。

 残り2店舗のお弁当屋さんは、なんとか価格500円でがんばっていますが、値下げしたお弁当屋さんにお客を取られた結果、一日50人もお客が減ってしまい、一日150人の顧客数となりました。一日の売り上げは25,000円も減り、75,000円。材料費等原価は300円×150個分で45,000円で、粗利は30,000円。ここも従業員の給与が払いきれなくなり、一人解雇することに…。それでも、従業員の給与、家賃や水道高熱費などの経費を支払ったら、一日の純益はわずか2000円。しかも、1人減った従業員数(3人)で仕事を続けていかねばなりません。
 しかし、そうしているうちにも、お客さんは値下げを断行した400円お弁当屋に流れて行き、日々、お客数が減っていきます。そこで、残り2店のお弁当屋も対抗上、お弁当の価格値下げを決断します!なんと、350円と言う思い切った価格を設定!しかし、原価300円で、350円と言う価格設定には無理があります。そこで、仕入れ業者に頼んで、材料費の価格を下げてもらいました。原価を一個当たり250円まで下げました。こうした結果、お客様はそれぞれ200人ずつに回復しました(2店舗で400人です)。
 しかし、売り上げは一日70,000円まで減り、原価50,000円を差し引いた粗利は、わずか20,000円。従業員をもう一人解雇することになり、そこまでの営業努力をしても純益は0円!そして、たった2人の従業員数で、今までの仕事をこなさなければいけないのです。それでも、儲けはまったく無しです。
 一方、最初に値下げを断行した400円弁当屋のお客様は100人にまで減りました(※地域のお客数500人-2店のお客数400人=100人)。その結果、一日の売り上げは僅か40,000円。原価30,000円を差し引いた粗利は、10,000円。もはや、店舗の維持も給与の支払いも不可能となり、倒産ないし店じまいしてしまいます。

 不況が長引く中、更に手持ち弁当派が増え、お弁当屋の顧客数は400人まで減少。そして、先の見えないサバイバル競争に生き残るべく、残りの2店舗も生き残りをかけて熾烈な営業努力と競争を続けた結果、たった一店舗だけが生き残りました。お弁当の価格は290円と言う破格値!業者に無理を言って、原価を230円まで下げてもらいます。一日の売り上げは、116,000円。原価は、92,000円。粗利は、わずか24,000円。400人分のお弁当をたった2人で作るのは無理なので、給与を一日7,000円に下げて計3人雇い、それでも一日あたりの家賃や維持費や水道光熱費を差し引いたら、毎日1000円ずつの赤字がかさんでいき、店の回転資金の借金は膨らんでいく一方。唯一生き残ったお弁当屋の店主も、いつ潰れてもおかしくない経営状況のなか、ノイローゼ寸前で毎日ビクビクとしながら仕事を続けている…彼は、それをとても勝利とは呼べません。

 と、だいたいこんなメカニズムです。この地域には、当初3つのお弁当屋が共存していて、お弁当売り上げは全体で
一日30万円あり、12人の雇用がありました。ところが、値下げ競争が熾烈を極めた結果、最終的に店舗数はたった一店になり、売り上げ額はわずか12万円弱になり、雇用はたった3名になってしまいました。しかも、雇用されている従業員の給与も大幅に下がり、しかも何倍もの仕事を抱え込んでヘトヘトに疲弊しきっているのです。それだけではありません。仕入先の業者にも大幅な値下げをしてもらっているので、仕入れ業者も、またそれを輸送している業者も、同じ過酷な状況に陥っているのです。

 これが、デフレのメカニズムです。人は、お弁当の値段が半分になったからと言ってお弁当を2個食べてくれる訳でもないし、車やエアコンが安くなったからと言って2台買ってくれる訳でもないのです。物の価格が下がった結果、雇用が大幅に減ってしまいました。雇用されている人間も、更に過酷な労働条件と賃金で働かなければなりません。雇用が減ったり賃金が減った結果、収入のない人々ないし収入の減った人々が増え、結果としてより一層、商品が売れなくなり、業者は一段と過酷な価格下げに走り、その結果また誰かが解雇され、従業員の仕事も一層ハードになる…底の見えないサバイバルレース。その先には、誰も勝者はいません。この現象が、あらゆる業種・分野で起こっています。これが、所謂"デフレスパイラル"です。

 この先の文章は、デフレを脱却するにはどうしたらよいかと言う、私なりの考え方です。地域のお弁当屋さんの例のようなミクロの視点ではなく、マクロの視点で考えます。なぜなら、デフレ脱却は(上記のお弁当やさんの例で見たように)個々人の努力では不可能であり、経済全体で考えなければ難しいからです。

 「良い物を、より安く」。資本主義の自由経済では当たり前の事ですが、企業努力が限度を超えてしまっている気がします。企業だけが伸びて、社会の人々の経済と生活は向上せずに崩壊していく…本末転倒です。ダイソーや、サイゼリアや、ユニクロなどなど…僕もよく行くし、安いし、品質もそこそこだし、企業努力は確かに凄いと思います。しかし、パイは限られているのです。例え安くても、人はお昼ごはんを2度食べたりしないのです。どこかが売れれば、どこかは確実に売れなくなるのです。そして生き残った企業の従業員の給与がたいへん高いかと言うと決してそんな事はなく、賃金の安いパート従業員やアルバイト従業員がその下支えをしているのが現状なのです。
 デフレは、先行き不安な人々の精神的な面が強く影響しています。社会全体の"現在の重苦しさ"ならびに"将来への不安感"が、デフレを作っている大きな要因です。僕の今後の経済に対する考え(方法論)については別のページで書いているので、ここではデフレと大不況脱却方法論についての考えだけに絞って書きますが、
社会保障や年金など、人生の不安を払拭する政治の担う責任はたいへん大きいと考えます。
 また、上記の社会生活での不安を払拭するための社会保障や年金の安定に加えて、もう一つ、
労働条件の法的改善が必要と考えます。例えば、会社組織での規模に応じた一定の正社員の確保を強固に義務づけ、かつ社員の労働条件や給与を改善すること。また派遣社員を派遣する側と雇う側の労働条件を厳しくし、安易な解雇や賃金低下をさせないこと。同様に、パートやアルバイト従業員の最低賃金を押し上げること、など。これは商品原価の上昇を意味しますので、強制的に商品の値段を押し上げますが、同時に雇用を増大&安定させ、また働く人の給与を押し上げます。増えた収入が、また物の売買を押し上げていきます。デフレスパイラルの逆のメカニズムです。しかし、収入の上昇があっても、将来や老後の生活の安心感がないと、将来の不安に備えてそれらを貯蓄に廻してしまいます。だから社会保障や年金の確実性が必要なのです。
 しかし、デフレ脱却は日本国内だけで解決できる問題ではありません。グローバル経済の中では、賃金を含めた原価の高い商品は国際競争力を失うので、
国際的な労働者保護条約の批准が必要と考えます。各国にはそれぞれ自国の法があり、そのルールに基づき経済活動が行なわれ、他国は口出しができません。先進国と言われる国は技術を持っていますが、労働単価の安さでは発展途上の国にはとうてい適いませんので、先進国ではソフトやハードを制した1割に満たない一部の者が大金持ちになり残り、残りの人々は報酬の高い仕事は得られず貧困層となります。一方、発展途上の国々は技術力では先進国に適いませんが、(労働に関する法的規制が甘く賃金が安いので)下請け生産の仕事が先進国から大量に流れます。ですが、労働者はそこでは低い賃金や労働条件で働かざるを得ないのです。現在のグローバル経済では、先進国、発展途上国を問わず、ほんの一握りの者しか経済上の勝者はいないのです。
 デフレの話から逸れているようにも感じられるかもしれませんが、国内の経済の話をする時、もはやグローバル経済の話を避けては通れないのです。例えば、日本では、派遣労働が自由化されてから、一気に貧困層が増えました。当然、そうなります…賃金は安く、雇用も安定しませんから。一部に派遣自由化を保護する声もありましたが、それはグローバル経済で戦う大企業にとって都合が良い理屈だからに他なりません。"国際的な労働者の保護の条約"の批准が必要と考えるのは、その点に置いてです。そうでないと、これからも一部の大企業だけが栄え、他はすべて貧困層へ移行せざるを得ないでしょう。事実、世界の経済は、じわじわとそうなりつつあります。それ故に、自由主義経済の国々でも、否、そうだからこそ、労働者の労働条件をきちんと考えねばならないと考えるのです。ベースボール、サッカー、バスケットボール、ボクシング…どのようなスポーツにも、ルールがあります。ルールなく何をしても勝てば良いとなれば、それは"単なる殴り合いや殺し合い"に発展します。現在のグローバル経済は、ルールの希薄なこの"殴り合い・殺し合い"の様相を呈しています。国際的な経済活動にも労働者のための一定のルールを儲け、その決められたルールの中で戦う自由経済競争にすべきです。もう一度書きますが、パイは限られています。そのパイの中で、全人類が文化的な生活をしていけるようなシステムを作るべきです。世界を見回した時、現代の社会はまったくそう言うシステムになっていません。国際法の批准は、各国の思惑が絡んで迷走します。とくに大国が批准しないと、簡単に頓挫します。労働者保護の国際法の制定…それだけですべての経済問題の解決になる訳ではありませんし、その道を模索する過程は長くかつ困難が伴うと思いますが、平和で安定した未来を見据えた時にぜひとも必要な要件の一つだと僕は考えるのです。

 以上、デフレのメカニズム、そして僕が考えるデフレ&世界的大不況脱却の道です。

 

デフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明する

新品価格
¥1,944から
(2014/11/11 09:17時点)

 

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

新品価格
¥782から
(2014/11/11 09:15時点)

 

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

新品価格
¥799から
(2014/11/11 09:15時点)

 

僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか? (星海社新書)

新品価格
¥929から
(2014/11/11 09:14時点)