JOLLYBOYの経済学入門

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4.バブル経済の崩壊と大不況 (2001年9月10日記載)

 いよいよ私たちの現在の生活の問題に近づいてきました。そう、バブル経済の到来とその崩壊です。今の日本、否世界を見る時に、この問題は避けて通れません。

・バブル経済とは何だったのか…
私たちの学生時代、正に大好況の真っ只中にありました。この好況は、もちろん初めからバブル経済と呼ばれていたわけではありません。好況を背景に、銀行や証券会社などの金融機関が就職先の一番人気でした。しかしこの大好況が、一部のマスコミで徐々に"バブル経済"と呼ばれだしたのもこの頃です。経済学部の学生だった僕は、定期購読していた"コモンセンス"という社会・経済情報誌で、初めて「この大好況はバブルであり、いつか弾ける」という記事を目にしました。バブル…つまりは「石鹸の泡」です。経済の実力を超えた、実体のない泡のような好況でいつかは崩壊してカタストロフィーが起こることを予告した記事でした。しかし好況に沸く中で、そんな声に耳を傾ける人はほとんどいませんでした。
 当時、あらゆる物が売れました。外国の高級車が飛ぶように売れ、バカ高いイタリア料理やフランス料理が連日満員で、5,000万円以上する高価なマンションがどんどん売れました。中でも、株式、ゴルフ会員券などの価格はとんでもない上昇をしました。でも、実体がないのです。実体がない…とは、どういうことでしょう?分かり易くするために、話を簡略化しましょう。100万円の土地資産を持っている会社が50円の株式を1万株発行したとしましょう。発行総額50万円です。この額で売買されるなら、この会社が仮に倒産したとしても資産売却すれば100万円になるのですから、50万円は全額戻ってきます。しかし、株価が値上がりし一株100円になりました。総額100万円…資産額と同額です。でも、もっと値上がりして、一株200円、300円、そして終には400円になりました。総額400万円です。その間に、土地も値上がりし時価額200万円になったとしても、まだ株の時価総額に200万円足りません。ここで会社が倒産したら、200万円分は何の裏付けもないのだから戻ってきません。大損をします。200万円分は、石鹸の泡と同じで実体がないのです。でも、人々は株に投資し続けて、一株500円、600円とどんどん値上がりしていきます。株だけに限らず、ゴルフ会員券や不動産など、あらゆるものがこんな調子でした。…そう、これがバブル経済と言われるものでした。
 では、何故そんな馬鹿なことが起こったのか。これは、もう理論ではないのです。群集心理と言いましょうか、「みんなが儲けている!俺も遅れてなるものか!」という集団ヒステリーに似た心理です。「会社のAさんは、株で儲けて新車を買ったらしい。新聞を見ると、株価はどんどん上がっている。俺も、早く株を購入しないと!」「マンションの値段がどんどん上がっている。今のうちに私も買おう。例え住み替えたくなっても、このまま上昇すれば高い値で売れるし損はない(否、むしろ儲かるはずだ)。」「高いゴルフ会員券を、ローンで買っても大丈夫だ。なんせ給料は上がっているし、会員券の値も上がっているからいざとなれば売ってしまおう。」…とまあ、こういった心理状態が、正に日本全体を覆っていたのです。当時の政府は、正に無策でした(むしろ後押しをしていたと言っても過言ではない)。価格が永久に上昇を続けていれば問題がないのですが、もちろんそんな馬鹿なことは有り得ません。いつかは、実体に相応しい価格へ戻らざるをえないのです。石鹸の泡はいつかは弾ける。そうして、バブル経済は一気に崩壊したのであす。もともと実体などなかったのだから、「なるようになった」としか言いようがない…。


・バブル経済崩壊がもたらしたもの…バブル経済は、ご存知のように完全に崩壊しました。しかしその余りに大きな傷跡は、大不況となって私たちを襲いました。先ほどの架空の例で言うと、一株100円の価値しかなかった株券が600円まで値が高騰しましたが、その後適正な100円に戻りました。しかし、一株600円で買った人たちが大勢います。総額500万円-適正価額100万円=500万円の損失。高騰期にさっさと売り払ってしまった一部の人は大儲けしましたが、その他の大多数は(そもそも経済の素人ですから)売りの時期を見定められず大損失を被ることとなりました。株だけではありません。会員券も、土地も、マンションも、車さえもです。
 例えば、(これは知り合いの実際の話ですが)6,000万円でマンションを買ったサラリーマンの場合はどうなったでしょう。バブルが弾け給料も下がり、高額の住宅ローンが払えなくなりました。いまや新築のマンションが2,000万円で買える時代です。わざわざ中古のマンションを6,000万円で買ってくれる人はいません。4,000万円でもいないでしょう。ローンが払えないのに、かと言って物件を売ることもできない…。企業でも、同様のことが起こりました。企業は、土地や物件の価値が下がり、つまり資産価値がなくなり企業の信用が下落する…。株で損した分を、物件を売って穴を埋めたいのに物件が思う値で売れない…。銀行は、担保にしていた物件や証券が大幅に値下がりし、倒産していく不良企業の資金を回収できない。…などというのは一例だが、あらゆる局面でバブルのツケが回ってきたのである。
 もっとも問題なのは、バブル崩壊後の政府の処理に関する対応である。本来、市場主義経済の日本であるので、どんな企業であれ経営が失敗すれば倒産せざるを得ない。それが金融機関であれ、例外はない。事実、アメリカなどでは銀行の倒産は日常茶飯事。しかし日本では、銀行トップの経営責任を取る事すらせず、公金つまりは税金を多額に投入した。不良債権の処理も、経営責任を追及することもなく、何度もである。政府はその理由に、必ず「金融の安定化」を上げるが、安定どころかむしろ国民に大きな不信を与えた。個人が住宅ローンで苦しんでも、政府が税金で返済してくれることはない。なのに、その住宅ローンを貸している銀行に、国は経営の責任も追及せず多額の公金をつぎ込んでいる。しかも、効果が出ていない。納得しろ、という方が無理だろう。
 次に問題なのは、バブル経済時に暴力団などの闇の勢力が、一気に拡大してしまったことである。地上げ屋に、総会屋にと、企業は天文学的な資金を闇組織に流してしまった。そのツケが、今出始めている。まず第一に、その当時法の網を潜り抜けて地上げや株主総会への関与、インサイダー取引などで儲けた彼らは、バブル崩壊後にそのツケを払わずに済み、一番弱い国民が税金という形でそのツケを支払わされている。これは、間接的に税金でヤクザを養ったことに他ならない。そして第二の問題が、バブル時に拡大してしまった闇の勢力が収入源を失い、末端の組織がより実力行使的・短絡的な犯行で"しのぎ"を削りだしたこと。各種機関の強盗、ピッキング泥棒、ピッキング車泥棒など、背後には暴力団がいると言われる。アメリカなみに、ありとあらゆる凶悪犯罪が日常茶飯事になってしまった。
 そしてなんと言っても、バブル経済の崩壊がもたらした最大の害は、精神的なダメージである。企業や政治や官僚に対する信頼は失われ、バブルの反動として無駄なことにお金を一切使わない。物は売れなくなり、企業の生産・販売は下降の一途を辿り、当然給料も下がり、そしてより一層物は売れなくなり、物の価額は下がる。それでも売れないので雇用がカットされていき、失業者が増大していく…。経済は、人々の精神のありようと決して無縁ではない。バブル経済が人々の群集心理がもたらしたのと同様に、この大不況も人々の不安と疑心の心理がもたらしている面が大きいのだ。

 さて、この"バブル経済の到来とその崩壊"を私なりに一言でくくると、「戦場と兵器のない戦争」であったと思う(こんなことを言うのは、おそらく僕だけだと思うけど…)。意外と思われるかもしれないが、非常に第二次世界大戦と似ている。社会全体がヒステリーとなって、同じ方向に熱狂していったこと。一時期、大勝利を得たように感じたが、その後大敗北したこと。どちらも政府は無策で、国家の舵取りに失敗したこと、政治家・官僚達の不正が極まっていること。政府の主導者は誰も責任をとらず、その苦しみと悲惨を一番弱い国民が様々な形で背負わされていること…など(実際に、年間3万人以上の老若男女が自らの命を絶ち、実質数百万人の人々が失業している)。現在は正に"戦後"であり、目に見えない焼け野原なのだ。そこからの復興をしなければならない、たいへんな時代だと僕は思っている。次回は、これからのこの国の経済について、まじめに考えたい。


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