カプチーノ限定・超短編小説 05

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 大学三年生の田村一郎が、友人の山岡正人からカプチーノを買ってから3ヶ月が経過していた。壊れていたマフラーを新品の物に交換し、ベルトやフライホイールやクラック板を始め、細かなパーツの交換も行った。30万円と言う格安価格は良かったが、結局補修代に20万円もかかってしまった。昔から"安物買いの銭失い"とは、よく言ったものだ。せっかくバイトで稼いだ資金も、ほとんどカプチーノに継ぎ込んでしまった。しかしエンジンそのものの調子はすこぶる良く、晴れの日のオープン・ドライブは非常に気持ち良かった。
 さてさて、今日は義兄となる予定の鈴木英次さんと、一緒に出かける予定だった。英次さんは、姉の里美とこの秋に結婚する予定。一郎と姉の里美は、5歳離れている。で、姉と英次さんは6歳も離れている。と言う事は、一郎と英次さんは11歳も離れ、つまり英次さんは32歳の人だった。
 で、何故その英次さんと一郎が一緒に出かけることになったかと言うと、話しは半年前に遡る。

 英次さんの兄と言うのが生粋のスーパーカー世代の人で、弟である英次さんもその影響でスーパーカー乗りになっていた。半年前は、なんとランボルギーニ・カウンタックに乗っていたと言う、バリバリのスーパーカー・エンスージアスト。しかし普通のサラリーマンの英次さんは、新しい生活に入ったら経済的にとてもカウンタックを維持できない事を知っていたので、姉との結婚を契機にそのスーパーカーを売ることにした。新婚生活では、現在姉が乗っている"日産マーチ"を生活の足として使うことになった。その代わりと言っては何だが、姉は英次さんに「軽自動車なら買っても良い」と言う条件を出した。普通自動車にプラスして、夫の趣味用に"軽自動車1台"ぐらいならば家計で維持できると考えたのである。
 そんな訳で、英次さんはカウンタックを売ってしまい"車(※あし)"が無くなった。で、英次さんは軽自動車のスポーツカーである"カプチーノ"に乗っている一郎を誘って、"軽自動車を買いに"中古車屋までドライブする事にしたのである。

 一郎が地元の駅に行くと、ロータリーで既に英次さんが待っていた。
「いやあ、休みの日にすまんなぁ…」。
そう言って、英次さんはカプチーノの助手席にに乗り込んできた。一郎は答えた。
「いえ、いえ。で、どこに行けば良いのでしょう?」
「同級生に中川と言う男がいて、そいつが中川自動車販売と言う店をやってるんだ。そいつに、車を一台頼んであってね。道は、指示するよ。」
英次さんがそう言うと、一郎は頷いてカプチーノを発車させた。

 移動中、英次さんの"スーパーカー遍歴自慢話"が始まった。一郎は、過去何度も断片的にその話しを聞いている。今日は、時間があるので全部聞かされるのであろうか…。英次さんは、一郎が"軽"とは言えスポーツカーに乗っているので、当然"スーパーカーも好きなはずだ"と言う"思い込み"で話しを始めた。一郎が、最近までスポーツカーどころか"車そのもの"に"まったく興味が無かった"ことなどは知る由もない…。
「大学生の一年の時に夜間アルバイトして、2年生の時ポルシェ924買ったんだよ。まあ、アウディ・エンジンだったけど…。なんと50万円と言う格安車!でも、これがなかなか壊れなかったんだな…。それに気を良くして、924売って…あっ、これが値落ちあくまりしなくて30万円で売れたんだよ、ラッキーな事に。で、その資金とバイトで貯めたお金を元に、次は911S買ったんだよ!なんと130万円だよ、信じられない格安だろ?」
一郎の心の声…"ああ、その件(くだり)はもう聞いた。その先も、過去2回聞いているんだけど…"。英次さんは続けた。
「ただ、こいつは食わせ物で、何度も故障しちゃってね。もう、金食い虫で…。バイト代は、ほとんどポルシェに継ぎ込んだんだけど、たいへんだったなぁ…」。
"ああ、予想通りの話しの展開だ"と一郎の心の声。
「で、社会人になった時、そのポルシェを売ったんだ。俺が、こつこつ直したおかげで、90万円で売れたんだよ、その911!」
"…ああ、そうですか。その自慢は、2回聞いてます…"。
「で、その90万円と給料とボーナスを元手に、5年ローンを組んで、フェラーリ・ディーノ246GTを買ったんだよ!600万円だよ、けっこう格安だと思うんだけど、エンジンは快調だったよ!あ、そこ右曲がってね…。ただ、外装がヘロヘロで…。鉄板がペロペロで、下の錆がガビガビ」。
"ヘロヘロに、ペロペロに、ガビガビですか…"。
「前のオーナーがどうやら元の塗装に、下処理無しでいきなり上塗り塗装したみたいなんだ。で、一度、塗装を全部剥がし、錆止めや下処理して、フェラーリ・レッドに塗り直したんだ。けっこう、お金かかったよ。イタリアのサルキ社のフェラーリ純正ロッソ塗料は、有機顔料で凄く高いんだよ。しかも下にピンクを塗らないと、きれいなレッドにならない。とにかく金がかかる塗装だったよ!」
"おいおい、そこは金額言わないんですか!"。
「ディーノはきっちり5年乗って、ローンも払い終わって、売ったんだ。ところが、コツコツとプチ・オーバーホールを続けながらきれいに乗っていたんで、500万円で売れたんだよ!600万円で買って、5年も乗って、500万円で売れたんだよ!ポルシェ924にしろ、911Sにしろ、ディーノにしろ、値が落ちない!さすが、スーパーカー!」
"そうですか。そこの部分の自慢は、絶対譲れないようですね…。でも、補修に"おいくら万円"継ぎ込んでいるのでしょうか?補修代だけで、それなりの新車が買えるのでは?"。
「で、いよいよその500万をベースに、子供の頃からの憧れのカウンタックを手に入れたわけだ。もちろん、ローンも組んで…。あっ、そこ左曲がってね。」
英次さんのカウンタックには、一郎は一度乗せてもらったことがある。上に開くドアに、ペチャンコの車体に、うるさいエンジン音。特段車好きでなかった一郎は、"スーパーカーとはこうも不便な車か"と思った程度だったが、ステアリングを握る英次さんは誇らしげだった。

 そんな会話を繰り返しながら、一郎のカプチーノは"中川自動車販売"に到着した。駐車スペースにカプチーノを停めると、中古車屋の敷地奥の建物から、作業着を来た若者が一人、足早にやってきた。それを見て、英次さんが一郎に言った。
「あれが、ここの社長の中川。」
そう言って、英次さんはカプチーノを降りた。一郎も降りて、英次さんに着いていった。英次さんの同級生だと言う中川さんは、歩きながら一郎に言った。
「へえ、君、カプチーノ乗ってるんだ。いい趣味してるね~。しかも、随分ときれいにしてるじゃないか。」
自分の愛車を誉められて、一郎は悪い気はしなかった。やがて中川さんは、一台の車の前で止まった。
「英次、これだよ、これ。かなり程度良いよ!」
英次さんは、一郎に言った。
「おお、AZ-1!一郎君、知ってるだろ?」
一郎は、最近車に乗り始めたばかり。"まったく"知らなかった。
「恥ずかしながら、全然知りません…。」
すると、またまた英次さんは嬉しそうに説明を始めた。
「マツダが作った軽自動車のスーパーカーだよ!2人乗りのスポーツカーで、しかもエンジンはミッドシップ搭載のリア駆動!で、なんとガルウィングドアなんだ!」
そう言って、英次さんはAZ-1のドアを開いた。すると、するりと上方にドアが開いた。一郎の目にも、小さいが確かに"スーパーカー"に見えた。中川さんが、一郎に言った。
「あっ、そうだ。このAZ-1の心臓…エンジン…ね、スズキ製なんだよ。カプチーノに搭載されているのと、基本は一緒。つまり兄弟車なんだよ、カプチーノと。」
「そうですか」
と答える一郎。"ああ、英次さんはこの秋に姉と結婚して義兄になるだけでなく、車でも兄弟になるのかぁ…"と、再び一郎の心の声。中川さんは、今度は英次さんに言った。
「英次は、ポルシェ、フェラーリ、そしてランボルギーニのカウンタックにも乗って、今度はミニスーパーカーのAZ-1。随分と短い間に、正にスーパーカーのAからZまで極めたって感じだな!」
そう冗談ぽく言って、笑った。
 英次さんと中川さんは、その後もスーパーカー談義で花を咲かしていた。マセラッティがどうの、ランチアがどうの、アルファロメオがどうの…話題は尽きないようだった。英次さんはカウンタックを失ったけど、新たに得る"軽"のAZ-1でも非常に嬉しいようだった。"車好き"と言うのは、こう言うものなのかなぁ…。

 一郎は、帰路では英次さんに"カプチーノを買う事になった経緯(いきさつ)"を話してみよう、そんな風に思った。いつか、英次さんと中川さんの会話に自分も加わってみたい、そんな風にも思った。そして、自分も「カプチーノを大切に乗っていこう」、そう心に誓ったのである。


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