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第五章 過ぎ越しの祭りでの騒動

 
エルサレム神殿/CG by JOLLYBOY

 月日が経ち、エルサレムの”過ぎ越しの祭り”の日が近づいてきました。
 この祭りの日には、イスエラル全土からたくさんの人々がやってきます。通常は1個歩兵隊(6個百人隊)の480人でエルサレムを警備していますが、祭りの時はもう6個の百人隊がやってきて、2個歩兵隊の総勢960人で警備の任務に就きます。カファルナウムのクロディウスの百人隊も、警備をするためにエルサレムへ派遣されました。ユダヤ各地から集められたローマ軍団兵たちは、祭りの間はエルサレム神殿の横にあるアントニア要塞で警備の任務に就きます。

 アントニア要塞/CG by JOLLYBOY

 その祭りの最中に、騒動が起こりました。

 クロディウスは、部下の報告に耳を疑いました。夜間にイエスが逮捕され、ユダヤの最高法院、そして総督ピラトやヘロデ王の下で尋問されたと言うのです。イエスは、クロディウス百人隊の副官を救ってくれた恩人です。
 ローマ帝国の総督ピラトは、ユダヤの祭司長や議員、民衆を、総督官邸に呼び集めました。クロディウスの百人隊は、その官邸で警備に当たっていました。総督ピラトの左右両隣りには、あのイエスと強盗のバラバが引き出されています。

総督ピラトは言いました。
「どちらを釈放してほしいのか。バラバか!救世主と呼ばれるイエスか!」
人々はいっせいに叫びました。
「イエスを殺せ!バラバを釈放しろ!」。
それを聞いて、クロディウスは悲しくなりました。イエスが善い人なのを知っていたからです。なのに、殺人者のバラバを釈放しろなどとは…。
 ピラトは、騒ぎが暴動に発展しそうになったのを見て、強盗のバラバを釈放しました。総督はイエスが無罪であるのを知っていましたが、暴動が起こって総督自らの評判を下げる事を恐れたのです。過去に軍団内の数々の不公正を目にしてきたクロディウスですが、この裁判の不当性には激しい憤りを覚えました。ローマ帝国の総督ともあろう人物が、自らの人気取りや立場の保持のために公正であるべき裁判を捻じ曲げたのです。
 別の百人隊の兵士たちが、総督官邸からイエスをアントニア要塞に連れて行き、鞭打ちの刑に処しました。鞭を打つ度に、イエスの肉片や血が周囲に飛び散ります。鞭打った上、イエスの着ている服をはぎ取って赤い服を着せ、 そして茨で冠を作って頭に乗せ、右の手に葦の棒を持たせて侮辱しました。
「ユダヤ王ばんざい!」

 百人隊長クロディウスと彼の部下たちは、彼らの行為を同じローマ軍団兵としてたいへん恥ずかしく思いました。悔しく思いました。しかし、他の百人隊の任務について口を出すことはできません。軍団内の争いはご法度です。勇敢さでは誰にも負けないと言う自負があるクロディウスと部下たちですが、一方でローマ帝国軍団の規則も破ることはできません。彼らは固く口を真一文字に結んで、無実のイエスが受けているその恥辱的な辛い光景に耐えました。


※注:エルサレムは平常時は1個歩兵隊=6個百人隊=480名(80名×6隊)で守備されていましたが、各地から大勢がやってくる過ぎ越しの祭りの時は、2歩兵隊=12個百人隊(960名)で警備されました。通常はヘロデの立てた3つの塔(※ダビデの塔)に分宿していた兵士達は、祭りの間はアントニア要塞で警備の任に就いたようです。
※注2:イエスが裁判を受けた場所は長らくアントニア要塞とおもわれていましたが、現代では多くの学者が「ピラトの総督官邸で行われた」と考えています。総督官邸は、ヤッファ門(※3つの塔の隣)の近くにあったのではないかと考えられています。ちなみに総督のピラトは、エルサレムの総督官邸に常駐していた訳ではありません。

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