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第四章 部下の病とイエスの癒し

 百人隊長クロディウスは、その後も、カファルナウムの町の安全や人々のために働きました。
 クロディウスは、地域の人々と積極的に話しをしました。部下の兵士たちには、地元の人々への"賄賂の要求"や"金品のたかり"等を固く禁じ、またローマ軍団兵は建築の技術にもたいへん優れているので、部下たちに命じて町の人々のために会堂も建てさせました。部下の兵士たちは一言も不服を言わず、隊長の命令に従いました。
 百人隊長クロディウスとその百人隊は、いつしか地域の人々の多くから尊敬と敬愛を受けるようになっていました。

 ある日、クロディウスの忠実な部下である百人隊の副官が、思い病になりました。
 数々の戦いを共に勇敢に戦い抜いた副官が、病でひどく苦しんでいます。クロディウスは、イエスの言葉と奇跡を忘れていませんでした。あのイエスなら、部下を救えると確信しています。彼は町の長老たちにイエスのところへ行って、部下を助けに来てくれるように頼みました。
 何故、彼は自ら直接イエスの所に行かないのでしょうか?クロディウスとその部下の日々の労苦にも関わらず、カファルナウムの町の中にさえまだローマ兵士のことを快く思っていない岩のような心を持った人々がいるのです(…確かに他の地域では脅迫や強盗まがいのことをするローマ兵もいるのです)。熱心党の人々や、またバラバのようにローマ人を殺そうとする人々は、ユダヤ中に…特に血気盛んな若者の中に…数多くいました。彼らは、かつてイスラエルを救ったユダ・マカバイのような英雄がローマ帝国を倒すと信じていました。それでクロディウスは、
「ローマ帝国の隊長である私が直接イエスに会いに行くと、イエスを危険な目に遭わせることになりはしまいか?」
と心配して、間接的に町の長老たちに頼んだのです。
 カファルナウムの町の長老たちは、イエスの所に来て熱心に願いました。
「百人隊長の願いを聞き入れて、ぜひ助けてください! あの方は、そうしていただくのに相応しい方です! 私たちユダヤ人を愛して、自ら会堂を建ててくれたのです!」
イエスはこの願いを聞き入れ、長老たちと一緒に出かけました。

 しかしクロディウスは、イエスが家の近くまで来たのを見て、友人を使いに送りました。
「主よ。私は、あなたを自分の屋根の下にお迎えできるようなものではありません。ただ一言、おっしゃってください。そうすれば、私の部下は癒されます。私も権威の下にあるものですが、私の下には兵隊がおり、一人に『行け』と言えば行きますし、 他の一人に『来い』と言えば来ます。また、部下に『これをせよ』と言えば、その通りにします」。
イエスはこれを聞いて、従っていた人々に言いました。
「はっきり言っておきます。イスラエルの中でさえ、これほどの信仰を見たことがありません」。
そして、使いの友人たちに言いました。
「帰りなさい。百人隊長が信じた通りになるように」。
使いに行った友人たちが家に帰ってみると、部下は元気になっていました。

 イエスは、異教徒であるローマ人の、しかも敵国兵であるローマ兵隊長の信仰を称賛したのです。この発言によって、イエス自身がユダヤの熱心な過激分子から敵とみなされる危険があったにも関わらずです。これこそ、クロディウスが恐れていたことでした。しかし、イエスは百人隊長の信仰を褒め、彼の部下を癒されたのです。この後、百人隊長クロディウスはイエスの事を忘れることはありませんでした。


※注:この章のベースになる聖書の記述は2ヶ所あります。1ケ所はマタイによる福音書(8章5~13節)で、もう1ケ所はルカによる福音書(7章1~10節)です。両者には、記述の若干の相違があります。マタイ福音書の記述は、百人隊長が"直接"イエスのところに来て、癒されたのは"僕(しもべ)"となっています。一方ルカ福音書の記述では、百人隊長は長老を"使い"としてイエスの所に送り、癒されたのは"部下(ぶか)"とされています。"僕"と"部下"は、明確に異なります。僕であれば、それは百人隊長に仕え、隊長の周りの事を切り盛りする"奴隷"の事です。一方部下であれば、それは百人隊に属する"兵士"の事です。この物語では、ルカ福音書の方の記述をベースにしました。しかし、癒されたのが部下であれ僕であれ、百人隊長の部下(ないし僕)に対する"深い愛情"、神にたいする"へりくだりの心"、イエスの言葉に"聞き従う姿勢"と言う、百人隊長の本質はどちらの福音書の記述も同じです。

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