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第三章 カファルナウムでのイエスの言葉

 百人隊長クロディウスは、イスラエルに来てからずっと考えていました。
 過去たくさんの仲間や部下が、多くの戦いの中で死にました。
「今の勇敢で忠実な部下たちには、死んでほしくない。人はいつか死ぬものだが、できるだけ生き抜いてほしい。百人隊長としてできる限りのことをして、彼らを守ってやりたい。」
彼は、そう心から願いました。そのために自分にできることは何だろう?無駄な争いを避ける、極力平和を維持すること。イスラエルの人々と話しをし、彼らを理解し、彼らを危険から守ること。兵士たちと民衆の相互の平和のためにはこれが大切だと、クロディウスは考えました。
 百人隊長クロディウスは、カファルナウムの住民の安全を守るため行動を開始しました。クロディウスは、町の周辺で騒ぎを起こしそうな人々や危険な人々を、部下に調べさせました。と言うのも、当時は旅人が強盗に襲われることも多く、日々の生活にも危険が伴いました。先日も、暴動の時に人を殺したバラバと言う男が逮捕されたばかりです。
 人々に警戒心や不安感を与えないよう、クロディウスは部下たちに私服で調査に当たらせました。

ローマ軍団兵 当時のローマ軍団兵の様子(1世紀後半の第9軍団兵)/CGby JOLLYBOY

 クロディウスの部下の一人が、郊外で大勢の人々が集まっている所に通りかかりました。大勢の人々が、ある男の周りに集まって話を聴いています。その部下が隣にいた男に聞くと、どうやらそれは”イエス”と言う人物のようです。彼は、バラバのように危険な男なのでしょうか?
 その部下は、市街地に帰ってから百人隊長クロディウスに、イエスと言う人物のことを報告しました。イエスなる人物は演説のように叫ぶのではなく、静かに民衆に語りかけていたと言います。クロディウスは、そのイエスと言う男に興味を持ちました。

 山上で語るイエスのイメージ/水彩画 by JOLLYBOY

 百人隊長クロディウスは、秘密裏に私服で自らイエスの話を聴きに出かけました。

 イエスは、ガリラヤの小高い山の上に立って語ります。
「心の貧しい人は、幸いです、天の国はその人たちのものです。
 悲しむ人々は、幸いです、その人たちは慰められます。
 柔和な人々は、幸いです、その人たちは地を受け継ぎます。
 義に飢え渇く人々は、幸いです、その人たちは満たされます。
 憐れみ深い人々は、幸いです、その人たちは憐れみを受けます。
 心の清い人々は、幸いです、その人たちは神を見ます。
 平和を実現する人々は、幸いです、その人たちは神の子と呼ばれます。
 義のために迫害される人々は、幸いです、天の国はその人たちのものです」。

 敵を倒すことを仕事としていたクロディウスは、そのような話しを今まで聞いたことがありませんでした。彼は、その言葉を心に留めました。

 イエスが話を終えて山を降りると、一人の重い皮膚病の人がイエスに近寄って言いました。
「主よ御心ならば、私を清くすることがおできになります」。
イエスは手を差し伸べて、その人に触れて言いました。
「よろしい、清くなりなさい」。
すると、その人の病気はたちまち癒されました。クロディウスは過去に任務で世界各地を巡っていましたが、そのような奇跡を今まで見たことが無く、驚きを持ってそれを心に留めてその場所から静かに立ち去りました。


※注:聖書において、この百人隊長に関する記述は多くありません。しかしこの百人隊長が、(彼の部下を癒してもらう前に)直接ではないにしても、何らかの形でイエス・キリストを知っていたと考えるのが妥当です。言動を見たことも聞いたこともない他人に対して全くの信頼を寄せて、部下を癒してもらうよう懇願すると言うのは、常識的にあり得ないからです。なのでここでは、百人隊長が何らこの方法でイエスの言動に触れていたという設定を取りました。
※注2:当時のローマ軍の資料によると、私服で遂行する不可解な任務もあったようです。ローマ軍団兵の仕事は軍事だけでなく、地域の警察や行政、土木など多様な分野に及んでいました。

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