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第一部:第五章 盗賊討伐

37.軍団給与支払い閲兵式

デケンブル月は終わり、新年のヤーヌアーリウス月を迎えた。ヤヌス神の月である。ヤヌス神は、始まりと終わりを司る時間と境界の神であり、ローマ人にとっては正に新年に相応しい神であった。
その第1日目は、軍団は朝から慌ただしかった。その日は、4ヶ月毎に行われる軍団給与支払い式の日である。クロディウス達新兵にとっては、初めて参加する全軍参加の閲兵式であった。
軍団兵は、全員が第1種軍装での参加である。クロディウスは、ピカピカに磨いた組み立て式甲冑を身に付け、同じくピカピカのコールス型兜を被った。その後、マルキウス百人隊の80人が兵舎の外に出て、百人隊長以下3人の士官の前に整列した。
タッラコ基地内には、第Ⅳ軍団全員が整列するスペースがないので、基地の南側の広場で閲兵式が行われる。まずは、若い第1戦列の歩兵隊が整列を終えて、一糸乱れぬ行進で南門から出ていく。次に第2戦列歩兵隊が整列して行進し、その後にベテランの第3戦列歩兵隊及び騎兵隊が出ていく。最後に、軍団の上級士官と総司令官が彼らの前に現れて、軍団給与支払い式が行われるのである。

クロディウスが初めて見る軍団給与支払い式は、壮観だった。ピカピカに磨かれた甲冑と兜を身に纏った数千の軍団兵が一同に集う様は、圧巻である。かつて子どもの頃、ローマのマルス広場で行われる軍団の閲兵式は見たことがあったが、自分がその閲兵式の場に、兵士として参加していると言うこの事実は、とても感慨深いものがある。

軍団司令官の演説が始まった。まずは、アウグストゥスの安寧とローマの平和を願った。それから軍団兵の献身と勇気を讃えて、更なる軍団の結束を鼓舞した。演説後、ローマの神々に捧げる諸儀式が始まった。主神ユーピテルに去勢牛を、女王ユーノーに雄牛を、女神ミネルヴァに雄牛を、軍神マルスに雄牛を、勝利の神ニーケーに雄牛を・・・と次々に、神々へ犠牲を捧げ続ける。ローマの神々は多いのだ。その間、軍団兵達は微動だにしない。こうして、軍団給与支払い式はつつがなく終了した。

軍団兵は兵舎に戻ってから、それぞれの十人隊長からパピルスを受け取った。クロディウスも、カッシウス隊長から小さなパピルスを受け取った。それは、軍団兵の給与明細である。彼の給与明細は、次のように記載されていた。

ダマスクスからクロディウス・ロングスへ。
給与第一回目の支払いとして。
・干し草        2.5 デナリウス
・食 料       20   デナリウス
・靴下と革ひも     3   デナリウス
・衣 服       15   デナリウス
・羊皮紙        3.5 デナリウス
・筆記具、インク    3   デナリウス
・軍旗管理       1   デナリウス
・祭儀積立金      1   デナリウス
・青銅貨、銅貨 現金  7   デナリウス
・ローマへ送金    25   デナリウス
・預金残高      15   デナリウス
・繰越金       11   デナリウス
  計       107   デナリウス

ローマのマルス広場で受け取った金額が75デナリウスで、タッラコに着いた時の残額が32デナリウス。そして軍団の最初の給与が75デナリウスで、合計107デナリウス。現金化7デナリウスとローマの家族に送った25デナリウスも含めて、支出の合計が81デナリウス。
預金はまだ15デナリウスで、繰越金は僅か11デナリウスしかなかった。クロディウスは、ここに来た時はほとんど物を持っていなかったので、服や文房具など余計な物を、必要以上に買い過ぎたかもしれない。これから服はそんなに要らないし、カナバエで購入した方が安い物もある事が分かったので、今後はもう少し節約できるかな、とクロディウスは思った。


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