トヨタ・パブリカ
(2008年5月25日記載)
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さて、今回から、国産自動車メーカーの黎明期を支えた大衆車達を振り返ってみたい。半世紀以上前の車達なので、残念ながら街中で見ることはもう無理。博物館で撮影した写真を使いながら、これらの車達に思いを馳せてみよう。その第一回は、今や世界ナンバーワンメーカーになったトヨタの、往年の大衆車"パブリカ"。
さて、せっかくトヨタの往年の名車を取り扱うのだから、トヨタの歴史も簡単に振り返ってみよう!
トヨタの歴史は、一人の人物"豊田佐吉"に端を発する。佐吉は、1890年に"豊田式木製人力織機"を完成。1924年には"無停止杼換(ヒガエ)式豊田自動織機"を完成する。昭和に入って1929年、佐吉の長男の喜一郎は、自動車産業の視察のため欧米に渡る。この出張時に、自動織機のパテントをイギリスの会社に(現在の価値で10億円にも及ぶ)100万円と言う大金で譲渡する。この100万円が、自動車産業へ乗り出すための軍資金となり、喜一郎は1933年に豊田自動織機製作所の一角に自動車部を設置した。
1935年にはG1型と言うトラックを発表し、A1型試作車も完成した。1937年には、挙母工場(※現本社工場)が操業開始。この時すでに、必要な時に必要な分のみ納入すると言う"トヨタカンバン方式"(ジャストイン方式)が採用されている(!)。トヨタ自動車は、1937年にトヨタ自動車工業と言う名前で発足した。
1938年には、初の乗用車となるトヨダAA型を発表する。同年、AB型フェートンやGB型トラックなども発表。しかし、1941年の真珠湾攻撃により、戦争が激化。日本中の産業が軍需優先になっていく。トヨタも例外ではなかった。
1945年に終戦を迎えたが、乗用車の製造は1949年まで制限された。そのような経緯の中で、トヨタは1950年最大の危機を迎える。莫大な有利子負債を抱え、資金繰りに行き詰まる。24の銀行による融資で乗り切ったが、その際の人員整理が原因で、3ヶ月にも及ぶ労働争議が生じた。トヨタはその時の教訓を活かすべく、今でも労働組合の組織やその取り扱い、また労働者の権利主張に対しては相当過敏に対応しているようだ。
初代クラウン(通称クジラクラウン/お台場・ヒストリーガレージにて)
とてつもない危機を乗り越えたトヨタは、1952年から純国産のオリジナル乗用車の開発に取り掛かる。その車こそ"クラウン"である。当時の自動車メーカーは、海外メーカーのライセンス生産で自動車製造に取り掛かっていた。トヨタの純国産車製造の道は、冒険であり、その道は険しかった。製造のノウハウもそうだが、本社にテストコースすらまだ無かった時代である。だが、1955年、遂にトヨペットクラウンが誕生した。1956年には、本社のテストコースも完成。1957年には、トヨタの屋台骨を支える事になるコロナも発表。また、クラウンは戦勝国アメリカに向けて輸出され、記念すべき"国産乗用車の対米輸出第一号"となった。
初代コロナ(通称ダルマコロナ/お台場・ヒストリーガレージにて)
さて、1950年代半ば、トヨタ自工では大きなプロジェクトがスタートする。他のメーカーにあって、トヨタには無い小型車の開発である。当初は室内スペース効率で有利なFF車の開発を目論んでいたが、振動や耐久性の問題で、当時の技術では開発が難航し、最終的にFR車の開発となった。それが、今回取り上げるパブリカとなる試作車"UP10"と言う車なのである。
さて、ここからパブリカについて述べていこう。先の試作車"UP10"は、1960年10月に全日本自動車ショー(※現在の東京モーターショーの前身)で発表された。この時に車名を公募した。100万通の中から、パブリック(大衆)とカーを掛け合わせた"パブリカ"が選ばれた。こうして誕生したパブリカは、1961年6月に、華々しく登場した。
しかし、販売成績は伸び悩んだ。実質重視で簡素な作りが、"車=贅沢品"と言う当時のユーザーには受け入れられなかったのである。そこでトヨタ自工は、パブリカを上級化すべく、メッキパーツや快適装備を施していくのである…。この時の"ユーザーの好みを熟知しなければいけない"と言う貴重な経験は、後のトヨタの自動車作りに(良くも悪くも)確実に徹底的に反映されていく。
さて、このパブリカの内容に目を向けてみよう。初期型のエンジンは、省エネで安い空冷の700cc(697cc)の水平対向2気筒OHVエンジンで、出力は28ps。全長はわずか3,520mm。現在の軽規格よりも、たったの12cm長いだけ。全幅と全高も1,415mmと1,380mmと、これまたミニマム。しかし、しっかり4人乗り。重量はなんと、580kg!現代の軽自動車よりも300~400kgも軽い!まあ、安全性能とか、当時と今では大きく違うので、単純には比較できないけれど、今の目で見るととても小さくて軽い。だから、たった28psのエンジンパワーでも、110km/hの最高速度が可能だったのである。しかも、燃費はリッター24kmとかなり経済的だった。
サスペンションは、前がウィッシュボーンとトーションバーによる組み合わせ、後が平行楕円形バネ。ブレーキは、前後ともリーディングトレーディング・タイプ。
トヨタらしく、手堅くまとめられた2ドアセダンは、とても合理的だった。当時の世界規格で見ても、極めて完成度が高く、実用的な小型車だった。価格も38万9千円と、軽自動車より僅かに高いだけ。現代の目をもってすれば、"正に名車である"と断定するのに相応しいクルマであった。
しかし、これが売れなかった。当時の日本国民には、この無駄を一切排除した合理性が理解されなかった。誰もが車を所有できた時代ではない…「車とは高級な物」…そう言う時代に、このシンプルで純粋に合理的な"パブリカ"は売れなかった。そこで、パブリカは、無駄な飾り物を付け足して高級化志向路線へとシフトチェンジしていき、オートマチック仕様やバンも追加していく。
初代トヨタ・パブリカ(栃木県・ホンダミュージアムにて)
そして、1963年6月にステンレス製のグリル、ダーク系のカラーを纏い、リクライニングシート、ラジオ、ヒーター等を装備したデラックス型が登場。販売が上向いていく。10月には、オープンカーのコンバーチブルタイプもデビューする。スポーティーなコンバーチブルのパワーは、8psアップの36psだった。1964年のマイナーチェンジでは、パプリカのエンジンパワーが4psアップし、32psになった。
1966年のマイナーチェンジでは、トヨタ・スポーツ800にも搭載された800ccの2U型空冷水平対向エンジン(36ps)と、初代カローラに搭載された水冷4気筒エンジン搭載の2タイプになった。外観も、フロントマスクが大幅にスポーティになった。それに伴い、コンバーチブルのエンジンパワーもアップし45psとなった。
1969年3月には2代目パブリカが登場した。エクステリアは、初代と大幅に変わり近代的なフォルムになった。スポーツグレードのSLも設定され、カローラSLと同一の1100ccK-B型エンジンが搭載された。同年10月には、早くも1,200ccへと変更された。この後、パブリカは、派生車種のパブリカスターレットに名前が受け継がれていく。
パブリカ・デラックスの成功は、後のカローラの開発に大きく影響していく事になる(※パブリカとカローラの開発者は同一人物)。その後のBC戦争(日産のブルーバードvsトヨタのカローラの販売競争の事)等の他メーカーとの激しい販売競争を通して、トヨタは国内だけでなく世界企業として急速に発展していくのである。そして、今日のトヨタの隆盛は、皆さんがご存知の通りである。
(※注記:2007年、トヨタは販売台数ではGMに僅か3千台の差で2位だったが、生産台数ではGMを上回った。本年2008年度は、名実共にトヨタが世界ナンバー1になると予想されている)。
2011年5月15日追記:隣町の三郷市で、某店の駐車場に停まっている現役の初代パプリカを見ました!オーナーさんが近くにいましたが、忙しそうにされていたので撮影はあきらめました。また見たら、その時は撮影許可をいただきたいと思います。
2011年5月15日追記:朝日自動車にて、懐かしいトヨペット・コロナを見ました。
2012年5月4日追記:ヒストリーガレージにて、パブリカのコンバーチブルを見ました。
2019年3月9日追記:ライド中にトヨタS800と並んだパブリカを見ました♪
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マイ・コレクションより"初代パブリカ"
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マイ・コレクションより"トヨタ1600GT"
マイ・コレクションより"初代カローラ"
マイ・コレクションより"カローラ・レビン"
参考・引用文献
国産名車コレクション/トヨタの歴史 他 (アシェットコレクション)
昭和の名車/あの時、あのクルマ (JTBムック)
The 絶版車ファイル/1950~1969 (インフォレスト)
トヨタの闇/利益2兆円の犠牲になる人々 渡邉正裕・林克明著 (ビジネス社)
「トヨタ経営」ひとり勝ちの法則 週刊ダイヤモンド編集部編 (新潮OH!文庫)
他
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