ポルシェ・ボクスター

(2005年10月9日記載)

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 ベンツSLKの章でも述べたのだが、200psを軽く超えるパワーを持ち1.4トンも車重のある車を、ライトウェイト・スポーツカーと呼んで良いのかと言う疑問があるが、ポルシェには911と言うヘビー級がいるので、ボクスターはライト級だと言うことのようだ。ちなみにボクスターの名前は、水平対抗を意味する"ボクサー"とオープンスポーツカーを意味する"ロードスター"を融合させたものである。
 ボクスター誕生のもっとも重大な要因は、ポルシェ社の経営危機である。かつてBMWやアウディと言ったドイツ車が、ブランド・イメージ確立のために高級車志向を打ち出したのに対し、最大のライバルであるベンツはシェアと売り上げの拡大のためコンパクトでコストパフォーマンスの高い車を次々と世に送り出した。1990年代の世界的な経済萎縮の中、ポルシェの911は大幅に販売台数を減らしていた。ポルシェも経営危機打破のため、売り上げ拡大を図ってベンツと同じような戦略を打ち出さざるを得なかった。10万ドル以上する911シリーズの半額以下(※5万ドル程度)の新型スポーツカーを販売して、シェア拡大を図ったのである。
 ボクスター誕生の要因は、他にもある。経営危機と表裏一体の話だが、911シリーズの行き詰まり感である。先端のスポーツカーは、ミッドシップ・レイアウトの車体バランスが常識であり、911のRRレイアウトのスポーツカーは明らかに時代遅れだった。しかし、世界中に広がっている熱狂的なポルシェ911ファンには「RR駆動以外の911等は認めない」と言う人も多い。実際、エンジンを空冷方式から水冷方式に変更しただけで、一部のマニアから大ブーイングが起こったほどだ。911ブランドを持つポルシェ社にとっては、そう言うジレンマがある。そう言う理由から、ミッドシップカーを作るには、924や944や928のように、911とは別物のスポーツカーにする必要があった。ボクスターの開発途上で、911と同様にRR駆動にするかミッドシップ・レイアウトにするかで意見が分かれたが、やはり最終的にミッドシップレイアウトに決定した。こうして誕生したのが、ボクスターである。

 ポルシェには、半世紀前には550ベックスパイダーのような美しいミッドシップカーがあったが、今ではコレクターズ・アイテムと化していて一般人の手にはなかなか入らない。かつて比較的安価な大衆車的なミッドシップカーとしては914があったが、基本的にエンジンはワーゲン製で純正ポルシェとは言いがたいものだった(914と914/6、914/8、916については別の機会に)。914は最近は街中で見かけなくなったが、僕らの子ども時代はけっこう走っていた。僕らはスーパーカーばかりに目が向いていたので、当時914(とその派生車)は眼中に無く、ほとんど写真に撮らなかった。今のデジカメと違い、当時のカメラはフィルム撮影で小学生にはとても高価だったので、撮影する車を厳選する必要があったのだ(今思うと、もっとたくさん色々と撮影とておけば良かったと思うが、子供の少ないお小遣いを考えるとそれは無理)。ちなみに914シリーズは(程度にもよるが)、30年を経た今でも未だに100万~200万円程度の高い中古価格を維持している。ボクスターは、この914シリーズ以来の、ポルシェの本格的なミッドシップ・ライトウェイト・スポーツである。

 子供時代に撮影したポルシェ914(田園調布にて)

 ボクスターが登場したのは、1996年。そろそろデビュー10年になる。最初は、「安かろう・悪かろう」と言う疑心暗鬼が市場にあったが、そんな不安はあっという間に払拭された。ボクスターはただ安いだけのポルシェではなく、高いパフォーマンスを持つ車であることが証明された。以前、テレビの試乗インプレッション番組で、ボクスターが取り上げられていた。ドライバーの自動車評論家氏は、意外な印象を語っていた。「ボクスターは、バリバリのスポーツドライビング用の車に思われがちだが、非常に運転しやすく、毎日の通勤にも十分使える。」…だいたいこんな事を語っていた。高いパフォーマンスは、決して日常生活での使用を無視したものではないのだ。某俳優がコントロールできずに観客を跳ねてしまった某スポーツカー○○○のようでは、怖くて我々は運転できない。車を何台も所有できぬ我々一般庶民にとっては、こんなにありがたいことはない。
 ボクスターは、デビューした当時2.5リッターの水平対抗6気筒エンジンを積み出力は204psを発揮し、最高速度は240km/hに達した。全長は4,315mm(全幅1,780mm×全高1,290mm)、車重は1,270kg(車重はベースグレードで表記。以下同)と、現行車よりかなり軽かった。
 しかし人と言うのは、すぐに無いものねだりを始めるもので、ボクスターを911のような高価なグレード車と比較し始めた。そこで、1999年にボクスターのエンジンは更にパワーのある2.7リッター(220ps)となり、レカロシートが採用されたり、いくつかの内外装の変更も行われた。ティプトロニックS変速システムも高性能になった。当然、車重は1,340kgと増えた。更に2002年のマイナーチェンジでは225psとなり、最高速度は253km/hに及んだ。空力性能も改善(僅かCd0.31)され、安定性や速度が向上した。車重は、1,370kgとなった。
 エクステリアは911に通ずるデザインで、一目でポルシェと分かる。コンバーチブルの電動ソフトルーフは、ポルシェとベンツが共同で創ったワークショップが担当して、わずか12秒内で開閉可能。充実したメーターやインテリアはさすがにポルシェ、車趣味心を十分に満足させてくれる。小型スポーツカーとしては、ボクスターは比較的広い室内を持っているし、リアにそれなりに大容量のラゲッジスペースを持っている。こう言う面でも、日常生活では大いに助かる。日常の気楽な足と言う面と、非常に私的な趣味空間と言う面を両立させているなかなかの優れものなのだ、ボクスターは。

 ポルシェ・ボクスター(港区赤坂近辺にて)

 ボクスターのバックビュー(千代田区市ヶ谷近辺にて)


 ボクスターには、Sタイプがある。1999年に追加されたボクスターSは、3.2リッターのエンジンを積み252psを発揮した。2002年のマイナーチェンジでは、260psにパワーアップされている。
 2003年には、ボクスターSをベースにフルオープン化した550スパイダーエディションが登場した。これは、550スパイダーの生誕50周年記念車である。スパイダーエディションのパフォーマンスは高く、公表値で264km/hの最高速を誇り、0-100km/h加速は5.7秒をマークする。911の性能には届かないが、優れた性能を持っている(…超えちゃったら911の立場がないけど)。

 ボクスター・Sタイプ(千代田区内麹町近辺にて)

 ボクスターは、1999年、2002年とマイナーチェンジし、2004年にフルモデルチェンジした。一見すると先代のボクスターと変わりないように見えるが、ほとんどのパーツが新設計。更に優れた運動性能を追求するため、可変式ステアリングが標準で設定。オプションで、911から受け継いだポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメントの新機構の設定も可能。エンジン排気量は2.7リッター、3.2リッターと先代と変わりないが、パワーはそれぞれ240ps、280psとパワーアップした。全長は4,320mmと、サイズはほぼ変わらない(車重は1,360kg)。価格は、580万~748万円ほど。

 今後、ポルシェの経営がどういう方向に行くかは分からない。企業基盤安定のため、この10年の間にボクスターやカイエンを世に送り出し、シェアと売り上げの拡大を図っている。一方で、ポルシェと言う企業のブランド・イメージの維持も決して忘れてはいない。ポルシェは、この両方のバランスの舵取りにたいへん気を使っている。個人的には、ポルシェが作ったコンパクト大衆車なんて言うのも見てみたい気もするが、それは有り得ないだろうなぁ~。そんな事をすれば、ポルシェ帝国は崩壊への序曲を奏でる事になるだろうし、そんな事は彼らも百も承知だろう。とすれば、当分はこのボクスターがポルシェのボトム・レンジを担っていくのだろうなぁ~。ボクスター…乗ってみたい。


追記:2006年9月、フルモデルチェンジ後のボクスターを見ました。涙目が治ってます。


追記:2009年1月、アキバにて旧型の真っ赤なボクスターを見ました。















 マイコレクションより"ポルシェ・ボクスター"

 マイコレクションより"ポルシェ・ボクスター"

 マイコレクションより"914&ボクスター&スパイダー・エディション"

 マイコレクションより"ポルシェ・ボクスター"

 マイコレクションより"550ベックスパイダー"

 マイコレクションより"550ベックスパイダー"

参考・引用文献
カーコレクション     (デルプラド・ジャパン)
僕の好きな時代、僕の好きなクルマたち3 (枻文庫)
国産&輸入車購入ガイド     (JAF出版情報)
乗り物大好き・世界の車         (PSG)
カーセンサー            (リクルート)


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