フィアット・クーペ&バルケッタ
(2005年5月15日記載)
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フィアットの車を取り上げるのは今回で2回目だけれど、チンクエチェント(※フィアット500)のインパクトがとても強かったから、どうしても大衆車ばかり作っている自動車メーカーのようなイメージがある。しかし、過去いくつものスポーツカーを作っている。スーパーカーが流行った僕らの少年時代、手ごろなミッドシップスポーツカーとして、フィアットX1/9が街中をわんさかと走っていた。何故か錆が浮いている車両が多くて(スーパーカーと呼ぶには)チープな感じがしたし、特段珍しくも無かったので、スーパーカー少年達にはあまり人気が無く、無視されてしまう悲しいスポーツカーだった。最近めっきりと見かけなくなったこともあり、貴重価値が高まってきた感じがして、今思うとX1/9もたくさん撮影しておけば良かったとちょっと後悔している。
さてフィアットは、イタリア最大の自動車メーカー(と言うか一大企業体、コンツェルン。ゴッドファーザーⅢでもモチーフにされている会社である)。フィアットはこれほどまでに有名なのに、一時期低迷していた時期がある。イタリア車の競争力が落ちた要因の一つに、第二次大戦前のムッソリーニ政権の影響が挙げられる。ファシスタ党のムッソリーニ政権は、兵器をたくさん作るよう自動車メーカーに圧力をかけ、自動車メーカーの中にはほとんど自動車生産を中止するような会社もあった。混乱している自動車メーカーが、まともな車など作れる訳が無い。この間に、国家の威信をかけて技術力を伸ばしてくるナチス政権下ドイツのメルセデス等の自動車メーカーと、技術力で大きく水を空けられてしまった。多くの自動車メーカーが、事実上の国営企業(IRI=工業再建協会)に吸収されてしまったことも、イタリア車にとって悲劇の要因の一つに挙げられるだろう。かつての共産圏諸国の自動車を見て分かるように、国営企業が世界に名を轟かす名車を開発できた試しが無いのだ(まったく"0"と言う訳でもないが…)。イタリア車は、同じ敗戦国のドイツや日本の自動車メーカーが急速に発展していくのに対し、明らかに低迷していた。
それなのに、フィアットが何故これほどまでに巨大に成長できたかと言うと、誤解を恐れずに言うとイタリアの経済政策の恩恵を甘受していたことが挙げられる。もちろんフィアットは20世紀前半は、世界の自動車技術をリードする一大自動車メーカーだったのは間違いない。ところが、フィアットは20世紀半ばにイタリア政府に働きかけて、輸入車の関税を大幅に引き上げさせた。外車はとても庶民が買えない高価な物になり、フィアットはイタリア国内市場では無敵のシェアを誇るようになった。しかし良い話ばかりではない。市場での競争が無くなると、寡占状態にあぐらをかいてメーカーの技術力と言うのはどんどん落ちていく。フィアット車は、外国での競争力を失っていった。北米での売り込みの際も、正に完敗してしまった。
フィアットだけが、競争力を失ったのではない。イタリア国内の数多くの自動車メーカーが、経営の危機に陥っていった。マセラッティ、ランチア、アルファ・ロメオ、フェラーリ…世界に名を轟かせた名車メーカーの数々が、倒産の危機に瀕していた。イタリアの至宝フェラーリでさえ、フォードに買収される寸前だった。これらをすべて救ったのが、フィアット社なのである。フィアットにしても、これら多くの会社を喜んで吸収していった訳ではない。フィアット以外に、そんな事のできる自動車メーカーはイタリアには無かっただけの話しである。
さきほど、フィアットは大衆車ばかり作っていると言うイメージがあると言ったが、これもあながち嘘ではない。フィアット傘下には、マセラッティ、ランチア、アルファ・ロメオ、フェラーリと言ったスペシャリティーカーの強者どもが首を揃えているのである。だから、フィアットはわざわざ各ブランドの持ち味を潰してしまうような車種は作らないのである。F1レースに象徴されるようなスーパースポーツカーをフェラーリに任せ、ライトウェイト・スポーツに象徴されるような車造りをアルファ・ロメオに任せ、ラリーシーンに象徴されるような車造りはランチアに任せ、ラグジュアリー感覚に溢れるスペシャリティーカーをマセラッティに任せてきた。同じようなタイプのスポーツカーは、作らせない。だから、フィアットブランドそのものにはスポーツカーが少ないのだと言えるが、逆に言うとこれだけの有名な世界有数のスポーツカー・ブランドが、実はすべてフィアット製なのだとも言えるのである。凄いではないか!
クーペ・フィアット/前方から(地元近所にて)
そんな状況下で、フィアット傘下の各有名ブランドのスポーツカーと重複しないようなスポーツカーを作ると言うのもたいへんな労力だと思うのだが、近年もフィアットにはスポーツカーのラインナップがある。その一台が、クーペ・フィアットであり、もう一台がフィアット・バルケッタである。
クーペ・フィアット/後方から(千代田区市ヶ谷にて)
クーペ・フィアットは、1993年にデビューした。フィアット・ティーポのコンポーネンツを利用して仕上げたクーペ。この独特な外観は、フィアット社内のデザイン・チームとピリンファリーナが競った結果、フィアット社内のデザイン・チームのデザインが採用されたもの(ただしインテリアはピリンファリーナが担当)。登場時は、2リッターの直列4気筒DOHC16バルブエンジンとターボモデルだけだった(出力は220ps)。1997年にはマイナーチェンジされ、2リッターの直列5気筒のターボモデルが登場した。駆動方式は、FF。全長は4,250mm(全幅1,765mm×全高1,355mm)、重量は1,330g。価格はグレードにより、334万~399万円だった。残念ながら、2002年3月に生産終了したが、今でも街中で走っているのを度々見ることができる。この斬新なエクステリアは、今見ても確かに新鮮である。
フィアット・バルケッタ(千代田区市ヶ谷にて)
フィアット・バルケッタ(中央区銀座にて)
もう一台のフィアットのスポーツカーが、フィアット・バルケッタである。O次郎(Q太郎の弟)のせりふ「バケラッタ」みたいな車名だが、意味は「小舟」と言う意味である(フェラーリにも過去何度かバルケッタと言う車名のスポーツカーがあった)。こちらは、フィアット・プントのコンポーネンツを利用している。日本に登場したのは、1996年。1.8リッターの直列4気筒DOHCエンジン(130ps)を積むFF駆動車で、5速マニュアル。価格は、グレードによって270万~330万円。2000年10月にマイナーチェンジした際、装備が簡素化され価格が若干安くなった(283万円ほど)。サイズは、全長3,920mm×全幅1,640mm×全高1,265mmで、重量は1,090g。2004年7月にはフルモデルチェンジされ、顔付きがかなり変わった。エンジンは基本的に変わらない。全長は若干短くなり3,895mm(全幅1,655mm×全高1,275mm)、重量は1,110kgと少しだけ重くなった。価格は293万円ほど。
フィアット・バルケッタ/後方から(中央区銀座にて)
クーペ・フィアットもフィアット・バルケッタも、ベースは量産大衆車をベースにした気軽に(※本格的な造りのマツダのロードスターとは違い構造的にハードな走行は難しいとしても)スポーツ走行を楽しめるタイプのイタリアン・スポーツである。フェラーリ、マセラッティ、ランチア、アルファ・ロメオ等の有名ブランド・スポーツカーとはもちろん性能的にも差があるが、その分価格も安くて肩肘張らずに付き合えると言う点では、正にかつての旧き良き時代のライトウェイトスポーツカーと同じ匂いがするのである。
フィアットは一時期の低迷期を抜けて、20世紀後半から色々と頑張っている。世界に先駆けて前後列3人シート6人乗りコンパクトカーのムルティプラを出したり、新型パンダも出したりと、オリジナリティに溢れる車を次々に連発していて元気が良い。いつかまたフィアットがチンクエチェントのような世界に名を轟かす名車を生み出すことを、密かに心待ちにしている私である。
2008年4月追記:事務所近くにて、バルケッタ見ました。
参考・引用文献
国産&輸入車購入ガイド (JAF出版情報)
乗り物大好き・世界の車 (PSG)
カーセンサー(リクルート)
他
フィアット―イタリアの自動車産業を支え続ける巨人 (ワールド・カー・ガイド・DX)
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