ポルシェ 911
(2002年11月24日記載)
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ここ数年、日本車でもブランド力が見直されている。高度成長期時代からバブル期にかけて、日本車は売れる車とあればなんでも作った。ワーゲン・ゴルフが売れたとあらば、ゴルフと同じコンセプトの車が作られる。トヨタのカローラが売れたとあらば、カローラもどきの車を製造。スズキのワゴンRが売れたとあらば、大同小異のデザインの車がぞろぞろと路上を走り出す。結果、昔の車を見ると、いったい何と言う車種なのか、そもそもどこのメーカーなのかすら分からない…そんな車が大半を占める無節操な状況になっていた。BMWやメルセデスは、20年前や30年前の旧式タイプの車が横を通り過ぎても、すぐにメルセデスやBMWだと分かる。一方、日本の大型セダンが横を通り過ぎると、「はて、今のはセドリックだったか、クラウンだったか…?」と、首を傾げてしまう。
しかしながら、大不況になって車も売れなくなった。巨人・大鵬・玉子焼きと言うような皆が同じ嗜好をしていた時代は当の昔に終焉を向かえ、現在は趣味や好み等がどんどん細分化、複雑化してしまっている。車に限らず、各層のターゲットの好みに合った特徴が無いともはや何物も売れないし、付加価値も特徴も無い商品は生き残れない。そんな中で他車(他社)との違いや個性…つまり自社のアイデンティテーを確立すること、つまり"ブランド力"がどれだけ大切かを、各社が気付き始めた。最近になって、ホンダが"ホンダイズム"を、日産が"日産DNA"や"Zイズム"を打ち出したり、トヨタが"ist"(○○ist=○○主義者)を発売。トヨタの"will"ブランドも、ブランド戦略の一つだ。
で、前置きが長くなってしまったのだが、世界で最も高いブランド力を持っているのが"ポルシェ911シリーズ"ではないだろうか。嗜好の激しく変化するスポーツカーの中で、これほどまでに頑なに同じデザインを保っているスポーツカーはなかなか無い。今回は、このポルシェ911を取り上げる。
ポルシェ911カレラ(自宅近所にて)
ポルシェ911は、大ヒットとなったポルシェ356の後継車として開発された。1963年にフランクフルト・モーターショーで、ポルシェ911のプロトタイプ"ポルシェ901"が発表されてから、すでに21世紀のハードルも超えてしまった。これだけ長い期間、圧倒的な支持を保っているのは、ポルシェ社の優れた設計思想と高い完成度を、この911が持っているからに他ならない。もちろん、性能は時代の変遷と共に向上している。大まかにいくつかの世代に分けられ、デビューから1973年までのナロー・ポルシェの第一世代。(新安全基準へ対応するため)大きな衝撃吸収バンパーを持った、1974年から1989年までの第二世代。1989年に964タイプが登場し、1993年には993タイプ登場。1997年に、まったく生まれ変わった996タイプへと至る。
ポルシェ911タルガトップ(千代田区内・事務所近所にて)
初期のポルシェ911はリアに空冷水平対向6気筒の2リッターエンジンを積み、130ps/r.p.mの出力と210km/hの最高速を誇った。1965年には、タルガトップ(ルーフトップが外れるタイプ)が発表された。1967年には、160psへと出力をアップした911Sが登場し、最高速も225km/hに向上。1968年からは、バリエーションも色々と増えて行き、性能も向上していった。1973年には、911カレラRS2.7が登場。リアのダックテールが特徴で、軽量化したボディに2,687ccにボアアップしたフラット6エンジンを載せ、最高出力210ps/6300r.p.m、最高速240km/hを発揮した。'73年型のダックテールRSは、ポルシェ・マニアの間では今でも人気の車種であり、コレクターズ・アイテムの筆頭株である。
その翌年、北米の安全基準に適合させるため、911の前後バンパーが大型の衝撃吸収タイプになった。排気ガス規制対策も行われ、全車2.7リッターに排気量アップした。ポルシェ911は、その後も性能アップとエンジンの出力向上を図っていく。中でも、1975年にターボ・モデル、"930ターボ"が初登場したのは特筆物である。3リッターのフラット6ターボの出力は、260ps/5500r.p.mに達した(ちなみに1992年には355psに達し、1995年にはなんと408psに達するツインターボが登場した。1999年には、3.6リッターエンジンに手が加えられ420HPに達している)。
ポルシェ930ターボ(世界の名車コレクション77にて)
ポルシェ930ターボ(中央区内にて)
ポルシェ911は、その後も性能をアップさせていき、1989年にカレラ4を発表。964と呼ばれるこの型のボディは、4WD化のためモノコック全体が作り直された。似たようなデザインに見えるかもしれないが、空力抵抗も大幅に改良された。また、電動格納式のリア・スポイラーを採用している。エンジンは3,600ccまでアップし、250ps/6100r.p.mを発揮する。また、サスペンションシステムにも大幅に手が加えられている。また、911カレラに代わるモデルとしてカレラ2がデビュー(カレラ4の2WD版)。カレラ2も4も、最高速度260km/hを発揮する。ボディは、両タイプともクーペ、カブリオレ、タルガの3種類ある。1991年にターボも復活し、(3.3リッターエンジンではあったが)最高出力320ps、最高速270km/hと言う高性能へ進化した。1992年には、381psのエンジンを搭載したターボSも限定生産されている。1993年モデルからは排気量を3.6リッターにアップし、最高出力は360ps、最高速度は280km/hに達した。
ポルシェ911カレラ4S(千代田区内・事務所近所にて)
ポルシェ911カレラ2(中央区銀座にて)
その後、1993年に993シリーズが登場し、1997年に996シリーズが登場する。この996シリーズでは、911がそれまで30年も親しんでいた空冷エンジンに別れを告げて、ついに水冷エンジンにチェンジした。これは、ポルシェファンの間では大事件であった。より大きな出力を得るには、水冷エンジンに変える必要がある…ポルシェ社の大英断であった。この996タイプのターボ版の出力は420psとなり、最高速は遂に300km/hを超え、305km/hとなった。ちなみにこの996には、最高出力462ps、最高速315km/hのGT2が設定されている。ボクスターと同じ涙目ヘッドライトは、賛否両論(…はっきり言うと否定的な人が多いようだ…僕もちょっと駄目です。すみません)。
涙目のポルシェ911カレラ(港区赤坂にて)
ポルシェ911GT3(千代田区神田にて)
ポルシェ社はこのように911のブランドを大切にしながらも、911シリーズとは別途に新型スポーツカーの道も模索していた。過去、ポルシェ914(MR/注:ミッドシップエンジン・リア駆動)、ポルシェ924(FR/注:フロントエンジン・リア駆動)、ポルシェ944(FR)、ポルシェ928(FR)…と、世に問うていった(実は僕は以前、中古の924を購入する計画を立てたが、結局ワーゲン・ゴルフを買ってしまった)。各々それなりのヒットはしたが、半ワーゲン製の914や半アウディ製の924は、ポルシェ・ファンからは真のポルシェとは認められなかったりする(注:後にきちんとポルシェ製エンジンを搭載した)。944や928は、超高性能のスポーツカーであるにも関わらず、FRレイアウトであるため、古くからの911エンスージアストからは好まれなかったりもした。ポルシェファンはRR(注:リアエンジン・リアエンジン)レイアウトにこだわり、ポルシェ911シリーズに心引かれて止まないのだ。
ポルシェ944(市内にて)
ポルシェ928(千代田区内・事務所近くにて)
しかし、実はポルシェ社はRRレイアウトは時代遅れであることを、ずっと昔に気が付いている(※と言うよりも、356は試作段階でそもそもミッドシップだったのを、当時の市場に合わせ4人乗り用のRR変更したのである)。RRのエンジン・レイアウトよりも、バランスの良いミッドシップ・レイアウトの方が遥かに高性能なスポーツカーを作れることは、もはや自明の理である。ところが、ポルシェファンは熱烈なる911シリーズの信奉者でもあり、ミッドシップ化はある意味タブーである…そういうジレンマがポルシェ社には確かにある。RRレイアウトではどうしても車両後部が重くなり、一般に言うオーバー・ステアが起こってしまう。この物理的な現象を克服するために、911の技術者達は、過去様々な技術を開発し投入せねばならなかったのである。それが911の歴史、と言っても過言ではないだろう。
…と言うわけで、911とは違う価値観を持った車が登場する。新開発2.5リッター水冷DOHCフラット6エンジンをミッドに積んだ、2シーター・オープンカー"ポルシェ・ボクスター"が登場した(注:実際のところは、ボクスターが登場した第一の理由はポルシェ社の財務内容に起因するところが大きい)。204psの出力で、最高時速は235km/h(ボクスターSは、3.2リッターエンジンで252ps、最高速度は260km/hに達する)。デザインは911の流れをくんでいるが、車のタイプとしては別物である。ボクスターは、別の機会にこのコーナーで詳しく取り上げたい。
少年時代撮影した911カレラ(田園調布にて)
さて話は911に戻るが、ポルシェ911のRRレイアウトによる負の部分を解消するために、操舵系を始めとしてあるゆる機構を進化させ、遂に4WD化によって絶妙なコントロールを得ていく…というような、ポルシェならではの独自の進化を遂げていった。日本のメーカーとは逆に、ブランドを頑なに守るスポーツカーの老舗であるポルシェならでは苦労が伺える。スーパースポーツカーメーカーとして、ポルシェは今日も911を更に進化させるべく努力・邁進しているのだ。だから、ファンたちはポルシェを応援し続ける。これが、本当のブランド力の真髄ではないだろうか。コロコロとコンセプトやデザインを変える、ポリシーやアイデンティティーの欠如した日本の自動車メーカー各社は、この気骨を少しは見習って欲しいものである(と言うか、今見習っている最中か?)。
少年時代撮影した911ターボ(田園調布チェッカーモータースにて)
←なんだか凄いスポコン911(千代田区内にて)
…とは言うものの、本音を言うと、街中にあまりにポルシェ911が増えすぎてしまった気もする。新車はもちろん十分に高額なのだが、長年に渡って生産しているので中古車がとても多く、さすがに有り難味が欠けてしまった。どこに行っても、ポルシェを見かける。実際100~200万円台で買えるポルシェ911は、中古市場ではざら。中には、○十万円何て言う911も。街中でポルシェ911を見ても、もはや誰も「オォッ!!」とは思わなくなりつつある。これは、スーパーカーの存在意義の一つ、「人と違うスポーツカーを持つ喜び」という観点からすると、どうなのであろうか…と言う疑問も少し残るところではある。
追記解説:911と開発コードの関係(2005年8月記載)
上記の文章の中に、ポルシェ911なのに、930だとか964だとか言う数字が色々と登場しています。クルマ雑誌でポルシェ911の記事を読んだ時、同じモデルなのに911と書いてあったり997と書いてあったり、混乱した事はないでしょうか。ご存知の方も多いとは思いますが、ポルシェの事をあまりご存知の無い方もいらっしゃるかもしれないので、一応解説させていただきます。
ポルシェのクルマは、開発コードのような番号を持っています。例えばポルシェ356は、設計コードナンバーがそのままモデル名になったと言われています。私たちが現在911と呼ぶモデルは、コードナンバーは901でした。そしてポルシェ901をモデルとして販売する予定でしたが、プジョーからクレームが付きました。ご存知の通り、プジョーのクルマは昔からモデル名に、203とか403のように十の位に"0"を使っています(今でも206とか307のように同様なモデル名を使っています)。だから十の位が0の"901"の使用について、ポルシェにクレームを付けた訳です。で、ポルシェは901の名前はプロトタイプまでに留めて(1963年のタイプまでを901とする)、1964年から生産販売されたコードナンバー911をそのままモデル名の911にしています(ちなみに901から911の間にも、その中間を埋めるコードナンバーの色んなポルシェ車が存在します)。コードナンバーとモデル名が符合する、名前の上で純粋な911は1965~1967年モデルまでです。
その後、上記の文章でも触れていますが、914や924、928と言った911とは違うタイプの車が作られています(ファンに受け入れられず、ことごとく失敗)。911ベースのクルマは、1974年に930ターボとして登場します。コードナンバー930から取られて930ターボと命名された(僕らの子供時代は930ターボの名称で通っていました)のですが、後にターボタイプも911ターボに名称チェンジされます。初代911が不朽の名作だったため、911シリーズの系譜に属するタイプは、後もすべてコードナンバーに関係なく"911"と呼ばれる事になります。良くも悪くも、"911"はポルシェブランドの代名詞となり、ある意味"911"の呪縛から逃れられなくなっていきました。
その後、911の系譜を開発コードナンバー順に、ざっと記しておきます。
・912(1976年登場)…911の廉価版として、911のシャシー&ボディに旧式の356Cのエンジンを積んだタイプ。コードナンバーは930より先だが、販売は930より後。
・930(1974年登場)…上述の通りターボ版の911。
・964(1989年登場)…911のモデルチェンジ版で、新開発のティプトロニックが採用され、ボディは丸くなり、4WDのカレラ4も加わる。
・980…911カレラGT。シャシー自体から別物と言う事で、このコードネームが与えられている。
・993(1993年発表)…964を引き継ぐポルシェで、最後の空冷エンジンポルシェとなった。人気高し。
・996(1997年発表)…遂に水冷化されたフラット6DOHCエンジンを積む911。ボクスターと同じ涙目が不評。
・997(2004年登場)…これを書いている現在、最新のポルシェ。凄いポルシェらしいが、凄すぎてどうなんだろう…と言う声もちらほら。涙目から元の丸目に戻る。
現在、911の開発コードナンバーは997。そろそろ1,000を突破してしまいますがが、その先はコードナンバーは使われないと言う話もあるとか。いずれにせよ、911と言うモデル名はすぐには消えないでしょうけれど。
追記:2005年6月、フェラーリ美術館にて"911GT3RS"を見ました。
追記:2006年4月、自宅近くで、懐かしいフラットノーズのポルシェを見ました。
追記:2006年6月、足立区内にて、1975年式のカレラを見ました。
追記:2006年10月、越谷市内にて911カレラを見ました。
追記:2007年1月、事務所近くでナロー時代の超美しい911を見ました。ダックテイルだけどカレラかな?
追記:事務所隣のマンション駐車場に、911カレラ4Sが停められている。一千〇百万円の車が露天駐車・・・いいのか!?隣はプジョー307CC。 (2007年1月撮影)
追記:2007年9月、越谷市内にてダックテイルの911カレラを見ました(※おそらく2006年に見たのと同じ911)。
追記:2008年12月、事務所近くにて最新型911のカブリオレを見ました。
追記:2009年1月、地元にてまたまたフラットノーズの911を見ました。ホイールが違うので、別の方かな?
追記:2017年7月15日、サイクリングで、栃木県の魔法陣スーパーカーミュージアムに行き、959(プロトバージョン)とケーニッヒバージョンのポルシェを見ました。
マイ・コレクションより"911カブリオレと930ターボ"
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マイ・コレクションより"911GT3"
マイ・コレクションより"904GTS"
うちの子のミニカー"924と911"
うちの子の世界のパトカー"カナダ警察・911ターボ"
うちの子の"プルバック・ポルシェ"
想い出:子どもの頃作った、930ターボのプラモデル。1/12サイズの精密モデルで高価だった。
参考・引用文献
カー・コレクション (デルプラド・ジャパン)
ロッソ No.55 (ネコ・パブリッシング)
僕の好きな時代、僕の好きなクルマたち・3 (枻文庫)
第32回 東京モーターショー (モーターマガジン社)
第33回 東京モーターショー (モーターマガジン社) 他