BMW イセッタ

(2002年11月10日記載)

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 前々回、4人乗りのとっても小さい車、フィアット500をご紹介した。しかし2人乗りに限定すれば、もっと小さな車たちがある。その中の一台が、今回ご紹介するBMWイセッタである。イセッタがどれくらい小さいかと言うと、全長はわずか2.285mしかないのだ(全幅は1.38m、全高は1.34m)。全長2.97mのフィアット500よりも68cmちょっと短いのを考えれば、かなり小さいのがお分かりいただけると思う。小さいボディーなので、なんとドアは正面についていて乗降は前部から行う。

 イセッタ(お台場・ヒストリーガレージにて)

 BMWのイセッタは、いかにして生まれたのだろうか。第二次世界大戦後、BMWは戦前の姿を取り戻すべく501や502と言った高級車シリーズを販売した。しかし、西ドイツは終戦直後の混乱した状況から脱しておらず、高級車はなかなか売れずにBMWはあっという間に経営危機に追い込まれてしまう。そんな折、BMWの四輪車開発部門のチーフが、ジュネーブ・ショーの会場で奇妙な乗り物を見つけた。それが、イソ社のイセッタであった。イセッタは車として見た場合、とても簡素・質素で、構造的・機能的にはオートバイに近かった(戦後の物不足社会にあっては、材料自体も高価で貴重なものだったのだ)。実際、このカテゴリーの車は、キャビン・スクーターと呼ばれる。BMWはイソ社と交渉し、ライセンス生産のみならず工作機械の譲渡までを認められた。イソ社のイセッタは販売当初は販売実績が良かったが、フィアット500Cの返り討ちに合って販売が低下していたため、すんなりとBMWに移譲したらしい。BMWはイソ社のイセッタを改良し、BMWの優れた技術をイセッタに注ぎ込んだ。エンジンは、256ccの4ストローク単気筒OHVを強制空冷式に改造し、最高出力は12HP/5800r.p.m、最高時速は85km/hであった。現存するイセッタがほとんどBMW製であり、イソ社製があまりないのを見ても分かるように、いかにBMWのイセッタの耐久性が優れているかがお分かりいただけると思う。小さくても、BMWはBMWなのだ。このイセッタは"イセッタ250"と名付けられ、4月から年末までに1万台の出荷というヒット作となった。この人気に応えて、BMWはエンジンを298ccに拡大し13HP/5200r.p.mまでパワーアップした、"イセッタ300"を追加した。
 ところで、イセッタは4輪のものと3輪のモデルがある。何故かと言うと、イギリスでは3輪自動車は税制上優遇措置を受けられたからである(そんな訳で、英国には3輪小型車が今でも走っている)。
 好調に推移していたイセッタの販売も、1957年をピークに下降していく。西ドイツ国民の生活水準が、回復してきていたのである。この状況を察知したBMWは、1957年8月に"イセッタ600"を発表。全長が2.9mに拡大され(全幅1.4m全高1.375m)、乗員定員は4人となった。前部ドアだけでなく、右側にも後部座席用ドアが付けられた。エンジンは、フラット・ツインで19.5HP/4500r.p.mの出力を発揮し、最高速は105km/hに達している。従来のイセッタと異なり、リア・アスクルにはディファレンシャル・ギアが装備され、リア・サスペンションに三角形のトレーリング・アームを採用した。その後、BMWはミドル・クラス(そして後にハイエンド・クラスのモデル)へと移行していく。イセッタ600の後に登場したBMW700と言うモデルは、通常のセダンスタイルのミドル・クラスカーとなり、イセッタ600はその使命を終えて桧舞台を去って行った。
 しかし、イセッタは今でも多くの人々に愛され、数多くのファンがいて、たくさんのエンスージアスト達にとてもとても大切に乗られているのだ。とても小さくて、大きな愛情を注がれている…それが"イセッタ"なのだ。

追記:2009年8月、お台場のヒストリーガレージにて、イセッタの後姿を撮影してきました。




 マイ・コレクションより"BMWイセッタ"

 マイ・イセッタ・コレクション


参考・引用文献
pen No.95     (TBSブリタニカ)
カー・コレクション  (デルプラド・ジャパン)