入口 >トップメニュー >ワインとCGと祈り >現ページ

JOLLYBOYの脳内討論 04 マスメディアについて考える

(2011年8月21日記載)

司会クラシテル:「脳内討論の第4回、司会の荒川クラシテルです。さて、今回のテーマは"マスメディアについて"です」。

脳の前方真ん中の人:「えっ?司会者、また交代されたんですか?ノンデル先生は、どうしたんですか?」。

クラシテル:「ユンケル・ノンデル先生は、過労だそうです。そこで、同僚の私が今回は司会を務めさせていただくことになりました。皆さん、よろしくね」。

クラシテル:「今日のテーマは、"マスメディアについて"です。ご自由に討論してくださいね」。

脳の左側の人「メディアっていう言葉だけど、実は言葉の意味が今一つ漠然としていると思うんです。この言葉を逐語的に説明すると、媒体や媒介を意味する"medium(ミィデアム)"と言う言葉の複数形が"media(メディア)"。つまり複数の情報を媒介して伝えるものがメディアです。メディアは、DVDやUSBのような記憶媒体自体も指しますが、この"マスメディア"のテーマで扱う"メディア"の意味は情報の伝達の方ですね」。

クラシテル:「はい、右の君、どうぞ」。

脳の右側の人「今の説明で、より分かりにくくなった気がするんだけど…(笑)。要は、テレビとかラジオとか新聞とか週刊誌とかの事だよね…。今の時代で言えばインターネットも、マスメディアに含まれるのかな。僕らは、日々何らかのマスメディアの情報に触れているよね。ニュースとか広告とか、けっこうそんな情報に左右されたりするな…その広告を目にしなかったら、おそらく買わなかった商品とかもあるしね」。

クラシテル:「そうですね。それでは、真ん中の君」。

脳の前方真ん中の人:「マスメディアの情報ってけっこう影響力が大きいから、メディアの情報は客観的で、公平・中立であるべきだと思うんだけど、どうなんだろう?普通、新聞やテレビの報道は正しいと仮定して、職場や家庭でも日常会話をするでしょ?」

(クラシテルが右の人を指す):

脳の右側の人:「それについては、大きな疑問があるな。マスメディアは、広告主と言うスポンサーがあって経営が成り立っているからね。今や新聞も雑誌も、経済的にはスポンサーの広告収入が、購読者が支払う購読料よりも遥かに高いウェイトを占めているし。テレビ局に至っては、視聴者からはまったくお金を取っていない…間接的にはスポンサー企業の商品を買うことで視聴者も広告料を払っているのだけどね、まあそんな事はテレビ局には直接的には関係ない。結局、マスメディアを支えるのは、スポンサーたる企業。マスメディアが経営の柱である広告主企業の不祥事を紙面の第一面に取り上げたり、ニュース番組に進んで取り上げると思う?雑誌でも同じ。車雑誌なんか見てごらん。新型車の提灯記事ばっかり。大スポンサーたる自動車メーカーの怒りを買うような記事なんてほぼゼロだよ。テレビ局が視聴率を気にして、雑誌が購読部数を気にするのは、一義的にはそれらの数字が下がってスポンサーが離れるのを心配しているからだよ。視聴者や購読者の反応を気にするのは、二次的なものに過ぎないな」。

クラシテル:「はい、真ん中の君」。

脳の前方真ん中の人:「そう言えば、テレビが報道しなかったのでほとんどの人が知らないと思うけど、消費者金融のグレーゾーン問題って覚えてる?利息制限法と出資法の上限金利が異なっていて…いわゆる実質的に法律で定める金利を超えた高金利が社会問題となって、全国の弁護士で結成したサラ金被害者の連絡協議会が記者会見を行ったんだ。なのに、ほとんどのテレビがこの重大な記者会見を報じなかったんだよ。当時、消費者金融は高金利で儲け続けていて絶頂期で、年間のテレビCM料が700億円とも言われていて、テレビ局はゴールデンタイムに消費者金融のCMをバンバン流して、多額のCM放映料を得ていたから、全国に広がる被害のニュースなのにほとんど報道しなかった。僕もテレビじゃなくてインターネットで、この弁護士たちの記者会見のニュースを知ったんだ。これは一例だけど、マスメディアに大きな影響力…つまり広告料の事だけど…を与える企業や団体に関しては、報道は決して中立でも公平でもないと思うよ。
あとさ、ニュースじゃないんだけどさぁ、みんなも覚えていると思うけど…同じ脳みそ仲間だからさ…、以前さぁ~、映画で「シュリ」って言う韓国映画を映画館で見たよね。で、後日テレビで放映するって言うので、心待ちにして見たよね。でもテレビ放映版の「シュリ」、編集の仕方が酷かったよね~。主人公の北朝鮮の女性工作員が韓国に潜入してさ、韓国社会に馴染むんだけど、物凄い過酷な過去と重大な任務を負っているせいでアルコール依存症になってしまう。この映画の肝心なシーンだよね。でも、アルコール中毒のシーンが全部まるまるカットされていて、主人公の心の葛藤がまったく視聴者には分からない。ビールなどの某飲料メーカーの手前、アル中のシーンは絶対に入れられない。それがテレビ局の暗黙の掟。それからエンディングシーンなんだけど…ここも重要なシーンで…北朝鮮の工作員と韓国の諜報員が対峙する場面で、北朝鮮の工作員が「ハンバーガーやコーラで育ったお前らには絶対分かるまい」と言うような台詞があるんだけど、某飲料メーカーや某ファーストフードに気を使って、台詞が「チーズやミルクで育ったおまえらには分かるまい」に変わっていたよね。アメリカ食文化の象徴たる"ハンバーガーやコーラ"をわざわざ引き合いに出しているのに、"チーズやミルク"じゃアルプスの牧歌的な光景を思い浮かべてしまうじゃないか!この映画、他にも大事なシーンがカットされていて、映画の内容が支離滅裂になってしまってたよね。とにかく酷かった…もう別の映画だよ、あれ。映画を制作した側の人間が見たら唖然としちゃうだろうね…映画の核心がまったく伝わらない。広告主に気を使って内容が捻じ曲げられるのは、何も報道番組だけじゃないんだよね。娯楽番組だって、こんな風に曲げられちゃうんだ。地方局を多数ネットしているTVキー局は、パチンコの批判とかもタブー。広告収入源の少ない地方局にとって、パチンコ業界は大きな広告収入源だからね…キー局は気を使って、パチンコ批判はNG」。

(クラシテルが左の人を指す)。

脳の左側の人:「具体例をありがとう…。僕は、マスメディアの行う世論調査についても、少し疑問があるんだ。世論調査は統計学に基づいて行われるんだけど、世論を正しく反映しているとは言い切れない。統計にはけっこう誤差があるんだけど、100人のアンケートと1万人のアンケートじゃ正確さがかなり異なるよ。ホントは国勢調査並みに1億人規模でアンケートすれば良いのだけど、費用的にも時間的にも無理だから、数百人程度で済ませる。社会科学的な統計は、自然科学的な統計と違ってミクロな変数が多すぎるから不確定な要素が大きくて、日本全国の傾向を知る世論調査での数百人程度のアンケートじゃ少なすぎるんだよ。こんな諺がある…「嘘には3つの種類があるものだ。嘘と大嘘、そして統計学である」。
それとさ、無作為抽出による電話アンケートって良く聞くでしょ?でも考えて欲しいんだけど、電話アンケートに答えられる人って、その時間に"家にいて"、"電話に出られて"、"協力できる時間と意思がある"人だけでしょ?朝から晩まで働きづめのサラリーマンなんて、絶対無理だよね。そうすると自ずと、アンケートに答えられる人の層って限られてしまうじゃないか。結局、アンケートに答えられる人だけの統計でしかないよね?それが全国民の傾向みたいに伝えられる。おかしくない?
これ以上に問題なのが、メディアが中立じゃない場合…つまりメディアが何らかの意図を持って世論を誘導したい場合、アンケートの設問の仕方に問題があることもあると思うよ。例えば「海外派兵につながる自衛隊の国外での活動に賛成ですか?」と「国際的な平和貢献となる自衛隊の国外での活動に賛成ですか?」と言う設問があったとしたら、同じ"自衛隊の海外での活動"を問う質問なのに、前者では"戦争"を想起させ"No"と言う意見に誘導し、後者では"平和"を想起させ"Yes"と言う意見へ誘導する傾向が高くなると考えられるよね。映画"市民ケーン"の基になったハーストの新聞社じゃないけど、自社の都合でありもしない記事を捏造したり、作為的な意図で世論を誘導しようとしていないか、僕ら自身が注意しなきゃならないと思うんだ。日本の組織ではありがちなんだけど…個人の優秀さは組織に飲み込まれてしまう。つまり、記者一人一の優秀さと、報道する会社の健全さは別ものだからね」。

クラシテル:「右の君で、最後の発言ですね。では、どうぞ」。

脳の右側の人:「仮にメディアが中立・公平を保ちたいと思っても、得た情報が操作されていたらそれは無理だよね。よく言われる戦前の"大本営発表"なんか、その典型例で…。でも、大本営発表も最初から虚偽の情報を流していたわけじゃなくて、戦況が好調だった初期は、意外と正しい情報を流していたんだ。ところが戦況が不利になってから、情報を隠したり嘘の情報を伝えるようになった。戦争の中盤以降は、もう大嘘の連続につぐ連続!結局、原爆投下に至るまで嘘を付き通した。全部、軍部の失敗を隠す保身のためだよ。
これって、今の日本の状況に似ていない?官僚が既得権益を手放さないために、そして数々の失敗・失態を隠すために、自分の都合の良い情報だけをスクープとしてマスメディアにリークする。警察の身近な犯罪情報リークから外務省の国際関係に関する情報リークに至るまで、全部根っこは一緒。一方で、自分たちに都合の悪い情報はマスコミに隠すし、友好的でない政治家には情報は与えないで潰しにかかる。日本で最も幅広い情報リソースを握っているのは実は日本の公官庁だからね、敵に回したらまず勝てない。日本のシンクタンク代わりの存在。
裁判なんかもそうでしょ?公害問題とかで国を訴えた場合、訴えた側に立証責任があるけど、情報を持っているのは国側…裁判で勝つのはとても困難。国側は多額の税金を注ぎ込んで色んなデータ集めているんだから、貧しい個人が勝てる訳がない。今そう言った意味では、日本のマスメディアと言うのは、官僚の"大本営発表"状態。太平洋戦争では原爆投下まで突き進んじゃったけれど、現代の官僚の情報支配もこのまま突き進めば、日本はとんでもない破滅状態に陥る…って言うか、日本はもう破滅しかかっているのかもしれない。象徴例として言うけど、原発問題なんてその典型でしょ?
マスメディアは企業の顔色を伺い、官僚側がリークした情報を伝える。一縷の望みはインターネットにあるとも思えるけど…インターネットの生中継画像や情報は、資金が乏しい個人でも可能だし、全世界の人が見られる。でも、インターネットの社会にも大企業のスポンサーがついたり、悪い意味での国家の規制が入るとこれもやや怪しくなるかな…。
だから、僕たちはシャワーのように日々浴びせかけられるマスメディアの情報を鵜呑みにするのではなく、自分の生活で肌で感じる事とか、身近な人々の情報とか、可能なら自分で調べるとか、自分自身の哲学や思想と照らし合わせたりするとか、情報を自分なりに咀嚼する必要があると思うな。量ではなく質。"ゴミのような大量の情報"から、背景にある"たった一つの情報の本質"を見い出す努力を行うこと。それは、市民が本当の意味で知的になることだとも思うよ」。

クラシテル:「みんな、ご意見ありがとうございました。次の討論でもまたお会いしましょう!」

メディア社会―現代を読み解く視点 (岩波新書)

新品価格
¥842から
(2014/11/8 15:52時点)

 

マス・メディア論 (有斐閣コンパクト)

中古価格
¥1から
(2014/11/8 15:59時点)

 

21世紀メディア論 (放送大学大学院教材)

中古価格
¥3,200から
(2014/11/8 15:55時点)

 

メディア論 (放送大学教材)

新品価格
¥2,376から
(2014/11/8 15:53時点)









2012年6月3日追記:「統計を疑え!」と言う記事の中で、マスコミのアンケート調査の問題点を書いたけど、先日あからさまな世論誘導としか思えないアンケートがあった。5月某日の某マスメディアの「原子力発電」に関するアンケートの結果報告なんだけど、これがどう解釈しても公平とは思えない設問。
例えば、①「将来長年に渡り環境や健康に被害をもたらす可能性があり、かつ莫大な費用支出が想定される原発は必要だと思いますか?」と言う設問と、②「電力が不足することが明らかに予想される場合、原発は必要だと思いますか?」と言う設問の場合、①の場合「原発はいらない」と言う割合が増えるだろうし、②は「原発は必要」と言う割合が増えると考えられるでしょう。
前述の某メディアのアンケートは、正にこの後者のタイプで、どう解釈しても「原発必要」へ世論誘導しているとしか思えない。このメディア、前から企業や官僚の"代弁者"的な傾向が強いと思っていたのだけど、こう言うアンケートを見ると、原発関係者や電力会社の代弁者としか思えない。

主な参考・引用文献:実証・経済統計(小沼博義著/高文堂)、大本営発表は生きている(保阪正康著/光文社新書)、トヨタの闇/利益2兆円の犠牲になる人々(渡邉正裕・林克明著/ビジネス社)、ウェブ進化論(梅田望夫著/ちくま書房)、バカの壁(養老孟司著/新潮新書)、なぜ人はニセ科学を信じるのか(マイクル・シャーマー著/岡田靖史訳/早川書房)、心理操作ができる本(渋谷昌三著/三笠書房)、美術史(ダナ・アーノルド著/鈴木杜幾子訳/岩波書店)、世界映画名作全史・戦前編(猪俣勝人著/社会思想社)、心理学(大村政男監修/ダイヤモンド社)、行動科学としての心理学(芸林書房)、各種テレビニュース、番組放映、新聞、インターネット報道など、他多数